山彦の落してゆきし椿かな
石田郷子
2025年3月22日は第13回星野立子賞授賞式の開催日。今回は石田郷子さんが『万の枝』で受賞。石田さん、おめでとうございます。新人賞は松田晴貴さん、高久麻里さん。共にお祝い申し上げます。授賞式ではきっと最高の『万の枝』評を拝聴するので、気後れする前に手放すことにした。
山彦の落してゆきし椿かな
山彦は山間で音が反射して返ってくる現象のこと。子どもの頃山に行くと必ず誰かが「ヤッホー」と叫んで山彦を確認していた。元々山彦は山の神が声真似をしたものだと思われていたが、この句の世界で山彦は椿を落とすほどの実体を伴っている。神が落としていったとは、ほんのり思うことはできてもはっきり認識して言い切るにはなかなか至らない。
山彦が落とした椿ととらえる視点を、大発見という感じではなくそれが当然という前提で描く作者の心持ちに拍手を送りたい。
※この記事は3/20(木)に書き上げ、3/23(日)まで送信し忘れていたため内容に矛盾する点があります。ご了承ください。
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
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