すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる
阿部完市
(『にもつは絵馬』昭和49年)
先日、ライブに行った。
ポリフィア(Polyphia)というテキサスのバンドで、ジャンルとしてはプログレッシブ・メタルという分類になるらしい。フロントマンであるTim Henson(https://www.youtube.com/@TimHensonW6RST)に惚れ込んで衝動的にチケットをとってしまったが、すばらしいライブだった。
彼らはインストバンドであるため、ボーカルはいない。ボーカルのないライブが初めてだったのでどう振る舞えばいいのか困惑して臨んだところ、多くの観客が同様に困惑していたので安心した。
唯一残念だった点として、客席の不運があった。Zeppのスタンディングなので適当な位置に立って観覧するのだが、ちょうど自分の目の前にNBAばりの大男がいたのである。
見ての通りの大男である。2m近い彼の両サイドには、1.8mを超える側近も完備されている。
さらにこの大男、驚くべきことに、揺れるのである。ライブなので当然だが、縦に横にと恍惚としたそぶりで揺れまくる。自分を含む周辺の客は、彼の揺れと逆の方向に常に揺れることで山脈の隙間を見出すほかなかった。
すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる
阿部完市
ボーカルのない音楽に耳をゆだねている時、どこか既知の感覚を味わった。後から考えると、完市の俳句を読んだ時の感覚に近い気がした。逆に、完市の俳句が”プログレっぽい”と言ってもいい。
音の羅列、言葉の羅列に対して受け手の身体は一瞬硬直し、ただ流れ来る音を受け取るのみとなる。受け手を無力化し、思考の間隙を与えないままに音を流し込むという手法は一種の攻撃であるとさえ思う。ドラクエで言えば「ふしぎなおどり」「さそうおどり」、ポケモンなら「あやしいひかり」「さいみんじゅつ」といった類の。
どこか心地よいその無力感に浸ろうと、ライブの映像を見返すことがある。しかし自分が撮った映像にはどれも、例のNBA山脈が映り込んでいる。その度に、先ほどとは違った無力感を感じるのである。
(細村星一郎)
【執筆者プロフィール】
細村星一郎(ほそむら・せいいちろう)
2000年生。第16回鬼貫青春俳句大賞。Webサイト「巨大」管理人。
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