たかだかとあはれは三の酉の月
久保田万太郎
今日は「三の酉」である。三の酉とは、11月に酉の日が三回ある時の三回目の酉の日のことである。一回目が一の酉と呼び、今年は11月5日、二回目が二の酉で11月17日、そして、三回目の三の酉が11月29日である。東京都台東区の鷲神社では、この酉の日に「酉の市」が開催される。酉の市とは、江戸時代から続く開運招福・商売繁盛を願う祭りで、熊手や唐の芋などの縁起物の露店が並ぶ。
関西では、商売繁盛を祈願する祭りとして、戎神社の「十日戎」が有名である。こちらは、1月9日が宵戎、10日が本戎、11日が残り福と呼ばれている。参道には小笹に宝物を吊るした福笹、戎笹、吉兆などの露店が並ぶ。
私は関西に長く住んだので、商売繁盛といえば「笹持って来い」の十日戎の方が馴染み深い。昨年1月のハイクノミカタにも十日戎のことを書いた。酉の市はまだ行ったことがなく馴染みも薄いが、動画を見ていると、縁起物を買ったお客に対し、店側が三本締めの手拍子で開運を祈るらしく活気がある。
先週の日曜日、句会の兼題が「酉の市」だったので、午前中に鷲神社へ参拝してきた。鷲神社は地下鉄日比谷線「入谷駅」から徒歩10分のところにある。ちょうどこの日は二の酉の後で三の酉前の普通の日曜日だったので、神社には熊手などの飾りのない空の露店が立ち並び閑散としていた。神社内の参道はあまり広くはないので、酉の市の日は恐らく人でごった返すのだろうと想像した。境内には巨大な木彫りの「なでおかめ」が飾っており、多くの参拝客がなでるとご利益があるとのことで不気味な黒光りをしていた。その隣が社務所でお守りや御神籤が売られていた。そこで目を引いたものが二つあり、一つは「掻っ込め熊手守り」という小さな竹の熊手に稲穂をつけたお守りで福を掻っ込むという江戸っ子の洒落が利いたネーミングのものと、もう一つは「ゴルフお守り」である。鷲神社の鷲は英語でイーグルのことで、ゴルフ用語でもある。昨今のゴルフブームと相まって問い合わせが殺到し特別に奉製することになったとか。これも江戸っ子の洒落なのか。このゴルフお守りの方が値段が高かったが、開運祈願の「掻っ込め熊手守り」と安全祈願の「ゴルフお守り」をセットで購入した。酉の市番外編みたいな内容になったが、酉の市のない日でも楽しめる神社であった。
(塚本武州)
【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。
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