柱影映りもぞする油団かな 高濱虚子【季語=油団(夏)】


柱影映りもぞする油団かな
高濱虚子

「まるで、冷蔵庫で冷やしたメゾンの革製品のよう。」

その魅力に惹かれ六畳の油団(ゆとん)を誂えたという方が、そう教えてくださいました。
上質な革のようになめらかで、驚くほどひんやりとしているその特別な感触に、一瞬で虜になったそうです。

油団とは和紙を何枚も貼り重ね、油を塗って作られる日本の伝統的な夏の敷物です。
丈夫で、適切に手入れをすれば百年ほど使い続けられるともいわれています。使い込むほどに深い焦げ茶色へと変わり、しっとりとした艶を帯びてゆきます。

油団のことを知ってから掲句を読むと、「柱影映りもぞする」と詠まれた油団の艶は、一朝一夕に生まれるものではないと感じます。
夏が来るたびに敷かれ、丁寧に使われ、また仕舞われる。その歳月の積み重ねが、静かな艶を育ててゆきます。

現代では、古くなれば買い替えることが当たり前になり、時間を重ねるほど美しくなる道具に出会う機会は少なくなりました。しかし油団は、使い続けられることで美しさを深めてゆく道具です。

掲句の油団には、いくつもの夏を迎え、道具を慈しみ、大切に使い続けてきた暮らしが育てた艶があるのでしょう。そのことを思うと、「柱影映りもぞする」という一句は、油団に艶を育んだ歳月への賛辞のようにも感じられます。

『ホトトギス新歳時記 稲畑汀子編』(三省堂) 所収

菅谷糸


【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。




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