落石の音にしづまる穂高夏 内藤花六【季語=夏(夏)】


落石の音にしづまる穂高
内藤花六

穂高は北アルプスを代表する日本屈指の岩峰です。

落石は偶然の出来事ではなく、穂高という山そのものの営みとして響いてきます。

落石が起こり、音が谷に響く。
その音が消える。
山だけが残る。
静まったのは、谷でもあり、空気でもあり、この句を読む者の心でもあります。

落石の音は、山がもともと持っている静寂を浮かび上がらせ、穂高という高峰の存在を一句の最後に据えることで、山全体が静まったようなスケールを感じました。

作者は落石に対する恐怖や自然の偉大さを直接語ってはいません。しかし「しづまる」の一語によって、音が消えたあとの穂高の静寂と緊張感が立ち上がってきます。

また「夏」という季題からは、強い日差しに照らされた岩肌の匂いや、遠くまで響く落石の音が思い浮かびます。
「穂高夏」の五音が、その広大な山容と夏の空気を一句の最後に広げています。

第34回日本伝統俳句協会賞受賞作品「アルプス一万尺」より

菅谷糸


【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。




【菅谷糸のバックナンバー】
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