【木曜日】は2か月交代で〈大学俳句会〉のみなさんにご執筆いただいています。「愛媛大学俳句研究会」からのバトンが渡ったのは「北大俳句会えぞりす」。7回目は大崎素直さんです。

大崎素直(北大俳句会「えぞりす」・むじな)
これを読んでいるあなたは、俳句の作り方をどうやって学んできただろうか。結社などの俳句のコミュニティに入って教わる人、句集を読みながら学ぶ人、あるいは全くの自分の感覚で作りながら学んでいく人。様々あるだろうが、その中でも入門書の存在は大きいだろう。私も俳句を始めた高校生の頃は、周りに経験者がいなかったために、文芸部の部室にあった入門書が唯一といっていいほどの道しるべであった。
多くの入門書には、俳句の作り方は一物仕立てと取り合わせの2つに大別できるとある(一物仕立てを「一物」、取り合わせを「配合」、「二物衝撃」などと呼ぶこともある)。本によってそれぞれの細かい定義は異なる。しかしここでは共通している部分をとって、一物仕立てを「季語と、季語を取り巻く情報や作者の思いのみで構成されている句」、取り合わせを「季語と、季語と関係のないフレーズを一句にした句」と定義する。
2つのうち、初学者に勧められることが圧倒的に多いのは、取り合わせではないだろうか。藤田湘子『20週俳句入門』は特にわかりやすい例であろう。この本は完全に取り合わせに特化しており、取り合わせの句を4つの型に分類しながら指導をしている。
夏井いつき『夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業』では「尻から俳句」という作り方が紹介されている。下五に5音の言葉を入れ、その5音の言葉を説明する7音のフレーズを中七とする。最後に、上五に季語を入れて完成だ。形としては『20週俳句入門』の〔型・その1〕と類似しており、「尻から俳句」はそこに句を作る順番を付与したものとなっている。このように、取り合わせは一物仕立てに比べて「型」にしやすく、これはそのまま教えやすさにもつながってくる。ここに、取り合わせを初学者に教えることの一つの大きなメリットがあるだろう。
他のメリットとしては、初心者が陥りがちな、句が単なる季語の説明で終わってしまうことを防ぎ、描く世界を広げられる点があると思う。私は、毎年8月に行われる俳句甲子園にOBOGスタッフとして参加しており、同日に行われている「小学生俳句教室」の手伝いもしている。そこでベースになっているのは「尻から俳句」だ。最終的には「季語+12音」の形にならなかったり、一物仕立ての句になったりすることもある。しかし、レクチャーの最初に季語かどうかは関係なく5音の言葉を挙げてもらうことで、一物仕立ての句を作ろうとしていたら出てこないような、自由な句が生まれているように感じる。
せんぷうきあたってねてるハムスター 土居郁奈(小2)
(1句目は『第28回俳句甲子園公式作品集』、2句目・3句目は『第27回俳句甲子園公式作品集』の小学生俳句教室関連ページより。学年は掲載当時のもの)
夏のあさき色をつぶすめだまやき 沢田結妃(小2)
夏休みランボルギーニ買っちゃった 高井雅規(小3)
このように、俳句指導において取り合わせを導入することには、一定の効果がある。しかし同時に、取り合わせを教える際には、注意が必要だと思う。取り合わせは取り組みやすい作句法である一方、決して「簡単な」作り方ではないと思うからだ。
長谷川櫂『決定版 一億人の俳句入門』には、「一物仕立ては散文に近い型であるから、誰でも比較的楽に詠めるが、取り合わせは散文ではあまり用いない手法であるから頭の切り替えが必要である。」という一文がある。「散文ではあまり用いない手法」というのは、長谷川の言葉を借りれば「言葉を切って「間」を作る」ことだ。取り合わせでは、季語と季語以外のフレーズには直接的な関係がない。関係のないもの同士がつなげて書かれることは、散文では基本ありえない。しかし、取り合わせの俳句はこの「間」を感じることこそが大きな魅力であり、一物仕立てとの大きな違いである。そして、「間」を楽しむにはある程度高度な感覚が不可欠だ。この感覚について始めにしっかりと説明しないと、初心者を振り落としかねないのではないだろうか。
同時に、取り合わせをメインで学んできた人に対して、一物仕立ての魅力を知ってもらうことも、非常に重要であると思う。理由の一つに、「取り合わせでは使いにくい季語」があることが挙げられる。取り合わせは「二物衝撃」とも呼ばれるように、季語と季語以外のフレーズがお互いの魅力を引き立て合うことが重要である。そのため、それ単体で主役になりそうな季語は取り合わせにくい。実際、時候や天文、植物の季語を用いた句に比べて、「遍路」「送り火」「着ぶくれ」など人事や行事の季語を使った句を見かけることは少ないのではないだろうか。一物仕立てに挑戦することは、様々な季語を使うきっかけになり、個人にとっても、俳句界全体にとってもプラスに働くことのように思う。
また、取り合わせは、季語について根気強く描写し続ける一物仕立てとは異なり、季語以外のことについても様々に描写できるから、句にオリジナリティを出しやすい。しかし季語以外のフレーズに集中しすぎると、季語に向き合う時間が減ってしまうのではないだろうか。もちろん、取り合わせの名句が季語に真摯に向き合った句であるのは間違いない。しかし、一物仕立てに取り組み、季語について純粋に考えることは、季語のさらなる魅力に気づくことができるという点でも、有効であると考える。
今回冒頭で引用したのは、斉藤志歩さんの句である。高校生の頃の私は、一物仕立ては敷居の高いものだと思い、詠むことを避けてしまっていた。ほとんどの句が取り合わせで、いかに季語以外のフレーズでオリジナリティを出すかに夢中になっていた。つまり、正直に言えばこの文章は私自身の反省から生まれたものなのだ。
しかし、大学生になり、『水と茶』という句集に出会った。掲句や〈再会や着ぶくれの背を打てば音〉〈引き出して麦茶パックのひとつなぎ〉など、一物仕立てで軽やかに季語の魅力を引き出している句群に、目から鱗が落ちた。この句集をきっかけに、私の作風は大きく変わったように思う。取り合わせに加えて一物仕立ての面白さに気づき、さらに俳句を楽しいと思えるようになった。
もし、かつての私と同じように、難しそうだからという理由だけで一物仕立てを避けている人がいたら、ぜひ一度挑戦してみてほしい。あなたの俳句を、私はもっと読みたい。
【参考文献】
NPO法人俳句甲子園実行委員会[監修]『第27回俳句甲子園公式作品集』書肆アルス、2024年
NPO法人俳句甲子園実行委員会[監修]『第28回俳句甲子園公式作品集』書肆アルス、2025年
斉藤志歩『水と茶』左右社、2022年
夏井いつき『夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業』PHP研究所、2018年
長谷川櫂『決定版 一億人の俳句入門』講談社、2009年
藤田湘子『20週俳句入門』角川ソフィア文庫、KADOKAWA、2022年
(大崎素直)
【サークルプロフィール】
北大俳句会「えぞりす」
2021年設立。北海道にゆかりのある大学生・短大生・専門学生によって構成されている。年2回刊の有志機関誌『旗手』を発行(オンライン販売はhttps://hokudaihaiku.booth.pm/)。文学フリマ東京43(2026年11月8日)に出店予定。
Eメール:haiku.ezorisu@gmail.com
X:https://x.com/hokudaihaiku
Instagram:https://www.instagram.com/hokudai_haiku/
【執筆者プロフィール】
大崎素直(おおさき・すなお)
2004年岩手県盛岡市生まれ、北海道札幌市在住。北大俳句会「えぞりす」、俳誌「むじな」、北海道大学短歌会、ユニット「山水」。第12回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門候補作。

今や200回以上もつづく吉田林檎さんの第12回目の記事。〈山頂に流星触れたのだろうか 清家由香里〉が取り上げられています。