叩頭すあやめあざやかなる方へ
飯島晴子
掲句の収められている『春の蔵』には〈献身やあやめをざつと見渡して〉という句もあるが、比べるとどうだろうか。
まず、上五の「叩頭」と「献身」。「献身」の方がしっかりと身を入れており、情のこもっている感じがする。一方の「叩頭」はもっとよそよそしい。
では中七下五はどうだろう。「あやめをざつと見渡して」の場合は、即座に「献身」の対象を決めているような印象がある。言い方にも、切れ味の良さがある。一方の掲句の場合は、熟考の末に「あやめあざやかなる方へ」叩頭した感じがする。だからこそ、「献身」のような自己主張はなく、もっとさっぱりと、何かを悟った後なのだと思われる。のっぺりとした文体にも、その余裕が現れている。「宜しく」とも「有難う」とも「さようなら」ともとれる。あるいは、「宜しく」も「有難う」も「さようなら」も本質的には同じという次元での一句なのかもしれない。
(小山玄紀)
【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員
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