卯月野にうすき枕を並べけり
飯島晴子
おおむね平らだが、枕ごしにはわかるくらいの微かな起伏のある野を思う。旅も思う。「卯」「月」「うすき」「枕」いずれも白いイメージを含む。どれも純白というのではなく、この句の微妙な気分にふさわしい、曇りのある白である。子規の〈寝ころんで酔のさめたる卯月哉〉を踏まえているだろうか。
卯月野に枕が配されることで、卯月野がだんだん畳のようにも見えてくる。先週の筍の句では、筍の下に畳がすみやかに敷かれてゆくイメージを想起するが、掲句はもっとじんわりとした感慨である。野と畳がとなりあい、そしてまざりあうのは晴子の俳句の一つの特徴であり、晴子の内面の景色であったかもしれない。
(小山玄紀)
【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員
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【小山玄紀のバックナンバー】
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>>〔7〕口中のくらきおもひの更衣 飯島晴子
>>〔6〕日光に底力つく桐の花 飯島晴子
>>〔5〕気を強く春の円座に坐つてゐる 飯島晴子
>>〔4〕遅れて着く花粉まみれの人喰沼 飯島晴子
>>〔3〕人とゆく野にうぐひすの貌強き 飯島晴子
>>〔2〕やつと大きい茶籠といつしよに眠らされ 飯島晴子
>>〔1〕幼子の手の腥き春の空 飯島晴子
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