世にまじり立たなんとして朝寝かな
松本たかし
連休過ぎまでおとなしくしていなさいということを言われて、それじゃあとおとなしいなりの連休の組み立てを人々が始めた今週。私は思い立って、早寝早起きを始めました。何とか七時台に起きようという程度ですが。そしてそれは早く仕事を開始して、町が真っ暗になる前に何とか終業しようという意図ですが。
みなさん、東京(部分)では蔓延防止重点措置、最初の金曜ですよ。
といっても、今夜は、おとなしく眼を労わるヨガのクラスにオンラインで参加するつもり。と、書きながら、それは果たして、参加して画面を眺める分だけ目を疲れさせるのか、それを凌ぐ勢いで回復するのかわからくなってきた。しかし、気持と頭と耳は安らぐ海外ミステリーを大画面でだらだら見続けて、絶対に目を疲れさせるよりはいいかもしれない。口頭でも説明してくれるから、そんなに真面目に画面を見なくともよいし。実際、オンラインヨガの最中は画面を見ていない時間も多い。なんとなく終わった後は眠くなって、眠りも深い気がするし。
そんな愚にもつかぬことを考えているとふと浮かぶのが、松本たかしのこの句。
世にまじり立たなんとして朝寝かな
能楽師の家に生まれ、自らもその道を志しながら肺の病でその道をはずれたたかしの、境涯がちらりと見える屈折を含む。世の人々に伍したいと考えて、まずは英気を養うべく朝寝をする。しかしながら、その朝寝のうちにも人々の時間は進んでいて、朝寝はした方がいいんだか、しない方がよかったんだか…そんな自嘲がおかしみをもって描かれる。
たかしには朝寝の句が多い。いや、山吹も菜の花も藤も多いけれど。
毎日の朝寝とがむる人もなし
物の芽のほぐれほぐるる朝寝かな
まだ、早寝がうまくいってなくて、無理やり早起きをしている段階の私にとっては羨ましい境遇だけれど、たかしの朝寝の句には妙な清潔感の分、やや寂しさがただよう。
と思っていたら、囀(さえずり)にこんな句を見つけた。
囀るや妹背ながらの朝寝宿
囀りの中、夫婦ではあるけれど、宿に朝寝もしてみたりして。
やっぱり清潔だけれど、寂しくはない。
(意味がちょっと違うけど)清潔で、あまり寂しくはない週末となりますように。
『鷹』(1938年)所収
(阪西敦子)
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【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】