とんばうの集ふあたりに加はる子 矢野玲奈【季語=蜻蛉(秋)】


とんばうの集ふあたりに加はる子

矢野玲奈


トンボの集まっている空間に子どもが近づいていく。「加はる」の動詞がうまい。この子どもはトンボの仲間になりたがっているような気がする。きっと虫が好きな子どもだ。子どもはトンボを追いかけつつ、うれしそうにトンボみたいにふわふわと動いている。

子どもを見つめた句であるが、甘くなりすぎないのがいい。

掲句は矢野玲奈さんの第二句集『薔薇園を出て』より。

子育ての句も、そうでない句も、平易で明るい句が多い。一読して気に入った句集だ。

この原稿を書いている今、うちの3歳児が発熱し……(明日の仕事どうしましょう……)子育ての「ままならなさ」を実感しているのだが、玲奈さんの句集を読むと、励まされるような気持ちになる。

好きな句をいくつか挙げる。

保育園へは鈴虫に会ひに行く
薔薇園を出てゆくときの薔薇の門
虫籠を虫籠らしく土と枝
手を洗ふために歌ふや啄木忌
分娩台上の昼食みかん付き

岸本尚毅さん、相子智恵さん、安里琉太さんによる栞文も読み応えがある。なかでも相子智恵さんの「留まらないひと」が名文だ。

千野千佳


【執筆者プロフィール】
千野千佳(ちの・ちか)
1984年 新潟県生まれ。
2016年 作句をはじめる。堀本裕樹氏に師事。
2018年 「蒼海」立ち上げとともに入会。
2021年 第2回蒼海賞受賞
2023年 第11回星野立子新人賞受賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2024年10月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】
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>>〔14〕世直しをしてきたやうないぼむしり 国代鶏侍

【2024年10月の水曜日☆後藤麻衣子のバックナンバー】
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>>〔2〕泣くときの唇伸びて月夜かな 池田澄子

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【2024年9月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】
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>>〔12〕虫売やすぐ死ぬ虫の説明も 西村麒麟

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>>〔9〕黄落す光が重たすぎるとき 月野ぽぽな

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>>〔7〕秋の蚊を打ち腹巻の銭を出す 大西晶子
>>〔8〕まひるまの秋刀魚の長く焼かれあり 波多野爽波
>>〔9〕空へゆく階段のなし稲の花 田中裕明

【2024年8月の水曜日☆進藤剛至のバックナンバー】
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>>〔3〕朝涼や平和を祈る指の節 酒井湧水
>>〔4〕火ぶくれの地球の只中に日傘 馬場叶羽

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>>〔2〕僕のほかに腐るものなく西日の部屋 福田若之
>>〔3〕すこし待ってやはりさっきの花火で最後 神野紗希
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【2024年7月の木曜日☆中嶋憲武のバックナンバー】
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