蜻蛉やヒーローショーの殴る蹴る 三橋五七【季語=蜻蛉(秋)】


蜻蛉やヒーローショーの殴る蹴る

三橋五七


秋の気候のよい昼下がり、すこしひなびた遊園地でのヒーローショーを想像した。下五「殴る蹴る」の大らかな描写に俳諧味がある。ヒーローショーのめまぐるしい動きと、蜻蛉のすばしっこい動きとが響き合う。掲句は第70回角川俳句賞の次席作品「ヒーローショー」の表題句。(角川俳句11月号)

作者の三橋五七(みつはしごしち)さんは、わたしと同じ結社「蒼海」の会員である。五七さんの句は面白くて大胆、そして巧い。句会では的確かつ深く掘り下げる選評で、堀本裕樹主宰からも一目置かれている。

聞いたところによると、五七さんは角川俳句賞に初めて応募されたそうだ。(すごすぎる!)

見下ろして関東広しこどもの日 三橋五七

市立北中代田に浮かびたる頃か 同

目をかけてきた台風が逸れてゆく 同

絵を褒めてまはる小母さん秋の園 同

朱いクボタ青いヰセキと田を打てり 同

「ヒーローショー」は伸びやかでとても面白い連作であった。上記の句が特に好きだった。

わたしが若杉朋哉さんの句のファンであることは、この連載の第1回で書いた。若杉さんの角川俳句賞受賞作品「熊ン蜂」は想像以上に素晴らしかった。選考座談会のタイトルが「一物仕立ての復権」であったこともまた嬉しかった。

最後に、三橋五七さんの「蒼海」誌での句を紹介し、わたしの2ヶ月間の連載を終わりとする。お読みくださりありがとうございました。

血と糞とポマード匂ふ闘鶏師 三橋五七

こちこちとパン屋のトング秋澄めり 同

富士火口覗いて行けり神の旅 同

おしつこに振り回さるる七五三 同

春菊のかき揚蕎麦があればもう 同

戦塵のまじる春塵かもしれぬ 同

十一の原子炉過ぐる帰省かな 同

臍の緒のごときを垂らし鵙の贄 同

煮凝に小骨や親不孝通り 同

生き急ぐやうに双六上がりけり 同

千野千佳


【執筆者プロフィール】
千野千佳(ちの・ちか)
1984年 新潟県生まれ。
2016年 作句をはじめる。堀本裕樹氏に師事。
2018年 「蒼海」立ち上げとともに入会。
2021年 第2回蒼海賞受賞
2023年 第11回星野立子新人賞受賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2024年10月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】
>>〔13〕曼珠沙華傾くまいとしてをりぬ 橋本小たか
>>〔14〕世直しをしてきたやうないぼむしり 国代鶏侍
>>〔15〕とんばうの集ふあたりに加はる子 矢野玲奈
>>〔16〕とどまればあたりにふゆる蜻蛉かな 中村汀女

【2024年10月の水曜日☆後藤麻衣子のバックナンバー】
>>〔1〕女湯に女ぎつしり豊の秋 大野朱香
>>〔2〕泣くときの唇伸びて月夜かな 池田澄子
>>〔3〕柿の色とにかく生きなさいの色 宮崎斗士
>>〔4〕巣をあるく蜂のあしおと秋の昼 宇佐美魚目

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>>〔1〕おとろへし親におどろく野分かな 原裕
>>〔2〕今生のいまが倖せ衣被 鈴木真砂女
>>〔3〕秋麗の柩にもたれ眠りけり 藤田直子
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【2024年9月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】
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>>〔9〕空へゆく階段のなし稲の花 田中裕明

【2024年8月の水曜日☆進藤剛至のバックナンバー】
>>〔1〕そよりともせいで秋たつことかいの 上島鬼貫
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>>〔3〕朝涼や平和を祈る指の節 酒井湧水
>>〔4〕火ぶくれの地球の只中に日傘 馬場叶羽

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>>〔5〕魔がさして糸瓜となりぬどうもどうも 正木ゆう子

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【2024年7月の木曜日☆中嶋憲武のバックナンバー】
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