仔馬にも少し荷をつけ時鳥
橋本鶏二
小さな子を連れた親子連れを見かけた時、その子がリュックサックを背負っていると可愛さは倍増する。「あんな小さい子が頑張ってる」と勝手に思い込むのだ。
子どものリュックに入れていたのはだいたい紙おむつだった。紙おむつの入ったリュックを本人に背負わせるという状況が母(子どもにとっての祖母)はお気に入りだったらしく、「おむつを背負わせる」と言っては笑っていたものだ。人が面白がるポイントはどこにあるかわからない。 重い荷物を背負っている子もいるかもしれないが、なかにはそんな場合もあるのでそこは温かい目で見守りたい。
大きくなって紙おむつが不要になってくると中に入れるものはお気に入りのおもちゃやおやつに変わってくる。それがいつしか親が持つべき重い荷物を持ってくれるようになった。荷物が軽くなるのは当然助かるが、どちらかといえばそこに気付く人間であってくれていることが喜ばしい。
仔馬にも少し荷をつけ時鳥
「仔馬にも」なので当然親馬は大きな荷物を載せている。「載せる」ではなく「つける」という程度の荷だから大きさや重さはたいしたことないだろう。いつかは大きな荷を負うことになるのだから、それに向けて少しずつ慣れていくための第一日目を詠んだ句として味わいたい。
その情景は人間界における大きな荷物を持った両親と小さなリュックを背負った子どもの姿に重なり微笑ましい。大きな荷物を持っている方は「微笑ましい」と言っている場合ではないのだけど。
荷をつける動作を描いているのでこれから動き出すところだろう。時鳥が山あるいは山に近い場所柄を思わせるので、馬に荷を背負わせて麓へと下山するところと考えたい。
「時鳥」は初夏の季語で、「キョッキョッ キョキョキョ!」と大きな声で鳴く。「テッペンタケタカ」などと聞きなされることもある。夜に鳴くことが多いというが、朝にも聞くことができる。
小さいながらも役割を背負って出発する仔馬を時鳥がその大きな声で励ましている。それは愛ある応援なのか、あるいはからかっているのか。どちらに感じ取るかは読者に託されているが、そこの居合わせていない限りは前向きな前者として鑑賞したい。
春の季語の「仔馬」も入っているがこれは時鳥の句。この句を心に蓄えておけば山道で時鳥の声を聞いた時に「励ましてもらってる!」と思えそうだ。元気が出るアイテムのストックをひとつ獲得。
『松囃子』(1949年刊)所収。※句集では俳号の表記は「雞二」(鶏の旧字)
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】
【吉田林檎のバックナンバー】
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>>〔148〕春眠の身の閂を皆外し 上野泰
>>〔147〕風なくて散り風来れば花吹雪 柴田多鶴子
>>〔146〕【林檎の本#2】常見陽平『50代上等! 理不尽なことは「週刊少年ジャンプ」から学んだ』(平凡社新書)
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>>〔140〕厄介や紅梅の咲き満ちたるは 永田耕衣
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>>〔138〕山眠る海の記憶の石を抱き 吉田祥子
>>〔137〕湯豆腐の四角四面を愛しけり 岩岡中正
>>〔136〕罪深き日の寒紅を拭き取りぬ 荒井千佐代
>>〔135〕つちくれの動くはどれも初雀 神藏器
>>〔134〕年迎ふ山河それぞれ位置に就き 鷹羽狩行
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>>〔132〕立膝の膝をとりかへ注連作 山下由理子
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