コスモスの風ぐせつけしまま生けて
和田華凛
「秋桜」と書いてコスモスと読ませるのは山口百恵のヒット曲による影響が大きいのではないだろうか。検索してみたらAIがそうだと答えてくれた。俳句では「秋桜」と書いたらあきざくらと読み、コスモスと読ませたい場合はそのままカタカナ表記すべしと習った。
同様に本来「極め付き」とするべきところを「極め付け」としてしまうのも小泉今日子の「ヤマトナデシコ七変化」の影響ではないかと思っている。こちらはAIでは該当データがなかった。最近では「極め付け」も受容の方向のようだ。それはもともと極め「つき」よりも極め「つけ」の方が発音しやすく、付録がついているような「付き」よりも名詞化した「付け」の方がインパクトがあり、文脈に沿ったテンションになるからではないだろうか。
例え間違った使い方だとしてもその方が気分に合っていれば多用して正解にもしたくなる。実践はあまりしないけど。
コスモスの風ぐせつけしまま生けて
“愛知諷詠会”の前書きあり。その会への挨拶句だろう。
コスモスの茎は細いが、それに対して草丈は1~2メートルと高い。コスモスに儚さと同時に強さを感じるのはそのためである。風に吹かれ通しのコスモスには当然風ぐせもつく。風でついた曲線をそのままに生けたのだ。
「風ぐせ」という言葉には馴染みがなく、辞書をひいても出てこない。しかし何を示しているかはわかる。寝ぐせが寝たことによってつくくせなら、風ぐせは風に吹かれたことによってつくくせだと容易に推測できる。誰もが見たことのある光景を指し示しており、「風」と「ぐせ(くせ)」の組み合わせは発見といえるのではないか。
この句には強い切れがない。むしろそのゆったりとした流れるような詠みぶりが魅力となっている。水仙やチューリップのような真っすぐ自立する花であればきりっとした姿に仕上げたいところだが、生けたのは風ぐせのついたコスモスなのだから強い切れは似合わない。曲線が大事なのだ。その曲線すらいつだらんとしてしまうのかわからない。その不安が「生けて」という言いさしの表現に表れている。
しかし前書きも含めて鑑賞すると、実体験としては、コスモスを風ぐせのついたまま生けてこれから句会に臨む、その瞬間の心持ちであろう。中七の臨場感からは吟行帰りであることが読み取れる。それもまた別の味わいがある。
最近は言葉の選択だけでなく詠みぶりも表現の一つとしている句により心を惹かれる。「華凛」という俳号も人物を表しており、しかも人物が俳号に負けていないところが個人的にツボなのである。
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】
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