
赴任先からとバナナの送られし
稲畑廣太郎
「バナナ」は夏の季題です。
日本国内でも、沖縄県や宮崎県などで栽培されています。
本来の収穫期は七月から九月頃。強い日差しの下で実を結ぶ、まぎれもない夏の植物です。
けれども、私達の暮らしの中では「バナナ」の季感を意識する機会はあまりありません。
スーパーへ行けば一年中並び、朝食の定番として、あるいは運動前後の栄養補給として、季節を問わず手に取ることができます。
それは、初夏の季題である「苺」にも少し似ています。
本来の旬とは異なる時期にも店頭に並ぶようになった果物は、その季題が本来持っている季感を感じにくくしています。
そんな中で、掲句は赴任先からの「バナナ」を詠んでいます。
赴任先が国内の暖かい土地なのか、あるいは海外なのかは分かりません。
ただ、「赴任先からと」という措辞には、その土地で暮らしはじめた人の気配があります。
見知らぬ土地の空、日差し、そこでの生活。それらが、一房の「バナナ」に託されて届いたように感じます。
送った人は、ただ果物を送ったのではなく、自分が暮らす土地の季節を少し分けてくれたのではないでしょうか。
ところで、百年後の読者は、「バナナ」という季題から、夏の強い日差しや収穫の季節を自然に思い描けるでしょうか。
それとも、一年中スーパーに並ぶ果物として受け取るのでしょうか。
その答えは、今の私達には分かりません。
それでも、季題には自然の季節があり、長い年月にわたって俳人達はその季感を共有し、一句に託してきました。
季題は自然の中にあるだけでなく、作品を通して読み継がれていくものでもあります。
これからも「バナナ」を夏の季題として詠む作品が積み重なることで、「バナナ」という季題は夏の光を宿し続けるのかもしれません。
『ホトトギス新歳時記 稲畑汀子編』(三省堂) 所収
(菅谷糸)
【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。

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