神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第100回】伊藤政三

〝銀漢亭の日〟始めました。

伊藤政三(「銀漢」同人)

ことの始まりは今年の5月13日。

「政三さんの店(注:夕焼け酒場)で使えるような食器があるから取りに来て」

という伊藤伊那男主宰のお言葉に従い、銀漢亭最後の日となった5月14日、食器を取りに店に伺いました。その時に「主宰の手料理が食べられて句会もある〝銀漢亭の日〟を夕焼け酒場でやっていただきたいのですが…」と、お願いしたのです。この私の唐突な申し出に主宰はただ曖昧な笑みを浮かべるだけでしたが、可能性はあると感じたのです。

なんとか〝銀漢亭の日〟を実現させようと、しばらくしてから主宰に手紙を書きました。投函してから数日後の9月10日、私の携帯に「夕焼け酒場の伊那男デイの件。オーケー」というショートメールが届いたのです。それから主宰と何度かやりとりし、厨房の下見にも来ていただいて、10月31日に第一回〝銀漢亭の日〟を開催することになったのです。

その開催日の午後2時過ぎ、千駄木駅に主宰を迎えに行っている間に助っ人料理人の小野寺清人さんが到着。持参の牡蠣・鮪・帆立・マンボウなどの海の幸を手伝いの白井飛露さんと共に手際よく調理していきます。やがて店に到着した主宰もご自宅で仕込んだ銀漢亭の定番料理(明太白滝・砂肝胡椒・豚シャブザーサイ・笹身の辛子和、等々)を大皿に盛り付けていき、早くもカウンターは料理で埋め尽くされます。

用意がほぼ整った午後4時頃になると参加者が次々に集まってきました。銀漢亭の閉店以来、会う場所も機会もなくなってしまった皆さんは久し振りに会える喜びを互いに分かち合っているようでした。

(特製のれんは、伊那男さんみずからの手で)

そして開演時間の4時半。この日のために、こしだまほさんが作ってくれた特製暖簾を主宰が軒先にかけて開店。この暖簾をバックに一回目の記念撮影をしてから宴が始まりました。

主宰と清人さんの料理に加え、皆様からの差し入れも多く、私が用意した料理は出す余地はありませんでした。当日、差し入れをご用意いただいた皆様には、この場をお借りして御礼申し上げます。また、揃いにTシャツと前掛けでお手伝いいただいた銀漢ガールズ(天野小石太田うさぎ)にも感謝いたします。

(銀漢亭復活を祝して、1回目の記念撮影!)

(お祝いと再会の乾杯は、いつものヴーヴ・クリコで!)

さて、よく食べ・よく飲み・よく語った夜七時過ぎ。お待ちかねの超結社による句会が始まりました。今回は「夕」「焼く」「場」の詠み込みで三句出しとなりましたが、これは「夕焼け酒場」にかけての伊藤主宰から出題です。出句者24名のほとんどの方にとって久し振りのリアル句会は、二畳ほどの小上がりと八畳ほどの土間にぎゅうぎゅう詰めの三密状態の中で行われました。

(選句にいそしむ皆さんの様子)

(谷中の夜は、赤ちょうちんとともに更けていき…)

披講は阪西敦子・伊藤政三・戸矢一斗・飯田眞理子の順で担当。狭い店内に次々と名乗りが上がり、やがて句会も終盤。残るは二人の主宰の選を残すのみとなりました。注目の「月の匣」主宰・水内慶太さんの「天」は〈望月の「銀漢亭の日」の酒場 こしだまほ〉。続いて伊藤主宰の「天」は〈遊郭の名残りの出窓新酒汲む 小野寺清人〉が選ばれ、それぞれに短冊が贈られました。

さて、それでは最高点句は誰の、どんな句だったのでしょう?

それは8人(私も選ばせていただきました!)の選が入った〈シーソーはいつも傾き冬夕焼〉という伊藤主宰の句でした。流石です。

大いに盛り上がった句会終了後、店のすぐそばにある谷中の観光名所「夕やけだんだん」で月をバックに二度目の記念撮影。

夜も更けて参りましたが、宴は続いていくのでした。

(写真右手前が伊藤政三さん。「夕焼け酒場」は本日も営業中!)

追記

「銀漢亭の日」は、伊藤伊那男主宰の御都合のいい日に毎月一回開催する予定で始めましたが、新型コロナウイルス感染症の急拡大により、現在開催を見合わせております。第二回「銀漢亭の日」を開催できるような日常が一日も早く戻り、また皆さんにお会いしたいと願っております。

(以下、ご参考までに当日の参加者です)
伊藤伊那男、水内慶太
青木百舌鳥、相沢文子天野小石、飯田子貢、飯田眞理子、伊藤政三、太田うさぎ、大住光汪、小野寺清人、加茂一行、柊原洋征、こしだまほ阪西敦子、白井飛露、鈴木忍竹内宗一郎、武井まゆみ、寺澤一雄、坪井研治、戸矢一斗、谷口いづみ、萩原陽里


【執筆者プロフィール】
伊藤政三(いとう・まさみ)
昭和37年5月24日、群馬県太田市生まれ。編集プロダクション勤務を経て、フリー編集者となる。昼の仕事に加え、平成31年3月29日から谷中「夕やけだんだん」上にある昭和感たっぷりの木造家屋で「夕焼け酒場」を開店し、現在に至る。「銀漢」同人、俳人協会会員。



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