ラムネ玉からんと恋の後始末 牧内登志雄【季語=ラムネ玉(夏)】

  ラムネ玉からんと恋の後始末   牧内登志雄(「愛鍵」)

 ラムネは、英語のlemonade(レモネード)が転訛したもので、玉詰びんに詰められた炭酸飲料のことである。1800年代にイギリスで発祥し、日本には黒船とともに伝わったとの説がある。明治5年5月4日にラムネ製造の許可がおりたため、日本では5月4日を「ラムネの日」としている。外国では王冠栓の発明により玉詰びんは消えてしまい、ラムネ瓶は日本独自のスタイルとなった。独特の形状をしたガラス瓶と栓の役割を持つ玉の音は清涼感を呼び、夏の風物詩となった。祭の時には屋台でも売られる。
 掲句は、飲み終わったラムネ瓶の玉がからんと音を立てるように恋の後始末をしなければならないことを詠んでいる。〈後始末〉という言い方が事務的である。ラムネ瓶は、飲み終わったあとはリサイクル回収に出さなければならない。屋台で買った場合には回収ボックスがあるので返しにゆく。瓶の美しさから持って帰る人もいるのだが、大抵は邪魔になり、回収ボックスに置きに行く。回収された瓶は洗浄後再利用されたり、溶かして別のガラスに生まれ変わったりする。恋もまた、終わってしまえばラムネ瓶同様、その辺に捨てずに収めるべきところに返却するなどの処置をしなければならない。
 ラムネは懐かしい味がする。ラムネ玉を押すと炭酸が溢れ、爽やかな香りが広がる。炭酸の気泡は恋のときめきに似ている。ときめきは、胸の奥からとめどなく湧いてきて、弾けるような刺激がある。時間とともに気泡は抜けてゆき、最後は甘くてぬるい液体となる。飲み干してしまったラムネ瓶はからんと美しい音をたてる。それ以後は、ただのガラス瓶となり興味が薄れる。美味しかった、楽しかった想い出だけが残る。気泡を持たないラムネ瓶は、次の恋を探すために回収ボックスに収めなければならない。祭は、後片付けまでが祭であるように、恋もまた、後始末をきちんとしなければ次へ進むことはできない。
 掲句のラムネは、別れる恋人と一緒に飲んだのだろうか。ときめいていた日々を思い出しながら飲み干して、別れを告げようとしたのだ。恋人の空いたラムネ瓶を「置いてくるよ」と言って受け取り、回収ボックスに入れた。二つ並んだ空のラムネ瓶は触れ合ってカランと音を立てたが、ただそれだけだった。中身のないラムネ瓶は、ときめきを失った二人のようだ。これで、後腐れなく別れられそうだ。幼馴染のような懐かしい匂いのする恋人とはきっと、別れた後は気さくな友達同士になるのだろう。

篠崎央子


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【執筆者プロフィール】
篠崎央子(しのざき・ひさこ)
1975年茨城県生まれ。2002年「未来図」入会。2005年朝日俳句新人賞奨励賞受賞。2006年未来図新人賞受賞。2007年「未来図」同人。2018年未来図賞受賞。2021年星野立子新人賞受賞。俳人協会会員。『火の貌』(ふらんす堂、2020年)により第44回俳人協会新人賞。「磁石」同人。



【篠崎央子のバックナンバー】
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