氷上の暮色ひしめく風の中
廣瀬直人
具体物は「氷」くらいであって、割と抽象的な景だ。「暮色ひしめく」という把握は、「風」と関連して成り立っているのだろうけれど、ともすれば幻視的な感じさえある。
構図がかなりはっきりしている。
まず「氷上」によって空間が示されるわけだが、下五では更に「風の中」という位置関係が提示される。フレームワークが用意されていて、その内側の領域に抽象的な景が収められている。
筑紫磐井は『飯田龍太の彼方へ』(深夜叢書社・1994)で、龍太の類型性を指摘している。たとえば、句末表現で言えば、「〜のこゑ」や「〜の音」、また「〜の中」がそれである。
少し話は逸れるが、蛇笏の最後の句集『椿花集』は龍太が纏めたものだ。ここには、「〜のこゑ」(山呼びて夏深むこゑ山鴉、よるべなく童女のこゑの日々寒し、乱鶯のこゑ谷に満つ雨の日も)や「〜音」(秋たつときけばきかるる山の音)、「〜の中」(菱採りのはなるるひとり雨の中、露踏んで四顧をたのしむ山の中)といった龍太の句の類型表現が、すでにして見られる。
(安里琉太)
【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「滸」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞。
【安里琉太のバックナンバー】
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>>〔11〕休みの日晝まで霜を見てゐたり 永田耕衣
>>〔10〕目薬の看板の目はどちらの目 古今亭志ん生
>>〔9〕こぼれたるミルクをしんとぬぐふとき天上天下花野なるべし 水原紫苑
>>〔8〕短日のかかるところにふとをりて 清崎敏郎
>>〔7〕GAFA世界わがバ美肉のウマ逃げよ 関悦史
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>>〔5〕青年鹿を愛せり嵐の斜面にて 金子兜太
>>〔4〕ここまでは来たよとモアイ置いていく 大川博幸
>>〔3〕昼ごろより時の感じ既に無くなりて樹立のなかに歩みをとどむ 佐藤佐太郎
>>〔2〕魚卵たべ九月些か悔いありぬ 八田木枯
>>〔1〕松風や俎に置く落霜紅 森澄雄
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】