囀に割り込む鳩の声さびし
大木あまり
割り込むのはするのもされるのも好きではない。列への割り込みは言語道断だが、歩きスマホをしながら電車に乗り込もうとしている人の前に割り込むのなら良いのではないかと思ってしまう。しないけど。こちらはより良い位置を確保するための真剣勝負に挑んでいるのだ。座れなくてもなるべく真ん中の方を陣取ってドアの出入りの妨げにならないようにしたい。しかしそんな大事な局面でスマホから目を離さないということは、その人には電車に乗り込むことよりも大事なことがあるのだ。乗客のスムースな乗降が電車の遅延を遠ざける。電車の運行は運転士と車掌と乗客の共同作業なのですよ。
同じ割り込みでも会話の中で最近思うのは、自分の意見を言うためには、時に人の話の切れ間に割り込んでいかなければならないということだ。
人の話に割り込みはしたくないので誰かが話し始めたらなるべく最後まで聞いている。意見を言うなら話の切れ間に言いたい。そのタイミングをはかっていたら、結局一度も発言できないまま会話が終ってしまったことがあった。話したいことあったのに!
そこにいる人が息を吸ったらこれから話をしようとしているということなので、話すタイミングは作ってあげたい。それがうまくいけばその会話にストレスはない。しかし、息を吸っても話をやめてくれない人というのは一定数いるので、その場合にはもう割り込むしかない。
囀に割り込む鳩の声さびし
鳩に割り込むつもりがあったのかは誰にもわからないが、そんなつもりはなかったと考えるのが順当であろう。いずれにせよ作者にとって鳩の声は割り込みだったのだ。そしてその声をさびしいと感じた。
囀というと雀をはじめとした小鳥たちの高い声がまず聞こえてくる。高音域の声の塊に対して低音の鳩の声が和することはない。音域もメロディもリズムも違う。
鳩にしてみれば鳴きたいタイミングで鳴きはじめただけのこと。声も、さびしさを訴えるつもりではなくいつものように鳴いただけに違いない。
しかしそれを囀への「割り込み」と感じた瞬間鳩の声はさびしいものとして響く。高音と低音の平行線は崩れないからだ。鳩の鳴き声もそういえばはしゃぐような幸せいっぱいの声というよりは不平不満を独りごちているように聞こえる。
鳥の声に鳥の声を合わせて囀を際立たせるという高度な手法。ハモりなら不協和音をぶつけるような、洋服なら柄ものに柄ものを合わせるようなイメージで難易度が高い。
鳩の低音に焦点を置くことで小鳥の囀の高さが後光のように際立っている。
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
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