つちくれの動くはどれも初雀 神藏器【季語=初雀(新年)】

つちくれの動くはどれも初雀

神藏器

初雀は本来元旦の雀なので松も明けた今となってはあまりにも遅いと俳人の皆さんには叱られそうだが、先週の分をアップしてからこんなことがあったので、書き留めておきたい。

とある句会の兼題が「初雀」だった。元旦は初日の出を見に行ったり初詣に行ったりするなか雀を探したが他の鳥はいても雀だけが見つからない。

その後も探し続けたが家の近くはもちろん街路樹にも公園にも見当たらない。5日の日曜日、朝から時間があったので雀の探索に出かけた。昨年特にたくさん来ていた梅の木のあたりを目指すがそこでも見つからない。しばらく声を聞かなかったからさすがに今日になって急に、ということは考えにくいか。2時間ほど探し回ったが、その間見かけたのは1羽。それもかなり高い位置にある枝にとまっていたので雀とは似て非なるものだったかもしれない。

2時間歩いて1羽…。それまで4日間(実際には兼題のでた先月から)探し続けた時間を加えたらどれほど雀に出会えなかったことか。大好きな雀さんに。

2024年10月1日に発表された環境省と日本自然保護協会の調査によると、雀の年間減少率が絶滅危惧種の基準3.5%を上回る3.6%であった。青鷺や鷦鷯(みそさざい)なども含め全16種の鳥の名があがっている。蜆蝶の仲間など蝶々の個体数も急減しているという。確かに雀は少なくなったが、さすがにまだしばらくは大丈夫と楽観視していた。

つちくれの動くはどれも初雀

雀の色は土の色に近い。つちくれ(土塊)が動いていると思ったら雀だった。あ、あそこでもつちくれが動いている…それもやはり雀。

正月ののんびりした時間だからこその発見。土の色と言ってしまうと貧相にも思えるが、動くつちくれと形容すると大地の恵みが続々と誕生するような豊かさを感じる。豊かさこそ正月のめでたさそのものだ。

土の見える光景もそこに固まっている雀もかつては都心でよく見られたが、最近では雀が集えるような広い地面を見ることもあまりない。雀だけは電線に仰ぐことができていたが、それすらもままならなくなる日が来ようとは。

かつての日常風景を、令和の今になって懐かしいというよりは喪失感をもって追想してしまうのだ。

会いに行ったタイミングではなかなか出会えなかった雀たち。春の朝には昨年同様あの梅の木にたくさん集まってきてくれるのだろうか。雀を見ることができるという当り前を喜び、感謝していきたい。

『貴椿』(2001年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



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