ハイクノミカタ

鳥不意に人語を発す更衣 有馬朗人【季語=更衣(夏)】


鳥不意に人語を発す更衣

有馬朗人

鳥は明らかに言葉を喋っている。子どもの時からそう思っていた。ランダムに声を発し続けることはかえって苦痛なのではないか。しかもあの雰囲気は明らかに何かを語っている。ただ人類に解読できないだけなのだ。

そう思っていた頃はセキセイインコを飼っていた。彼らの言葉をわかってあげることはできなかったが、我々人間の話していることはわかってくれている気がした。鳥の目は黒くてどの角度から見てもこちらを見ているように見えるために錯覚してしまうのか。

犬語や猫語を理解するという人もいるだろう。しかし彼らの声は鳥に比べると音のバリエーションが少ない。使える母音は3つ程度か。音階も限られているのでノンバーバルコミュニケーションが中心となる。

それが最近では鳥の言葉の解読が可能になってきているという。しかも単語レベルではなく文で。動物言語学者の鈴木俊貴先生がシジュウカラ語を次々と解明しているのは様々なメディアで取り上げられているのでご存じの方も多いだろう。

シジュウカラ(四十雀)の話をするなら4月10日のシジュウカラの日にあげたかったところだが、四十雀は夏の季語なのでその日では違和感がある。

夏の季語でもある愛鳥週間は設立当初は4月10日からの1週間だったが、その頃にはまだ北の地方で雪の残る地域があるため昭和25年からは5月10日開始となった。ゴジュウカラの日だ。つまり愛鳥週間はシジュウカラからゴジュウカラに変わったのだ。

シジュウカラの日は別としてその1ヶ月後となるゴジュウカラの日も過ぎてしまっていた。結果、更衣の時期にあげることとなった。

鳥不意に人語を発す更衣

この句においては鳥の鳴き声を鈴木先生のように言語として聞き取っているのではなく鳥が人間の言葉を喋り出した幻想、あるいはそう感じた体験と受け取った。映画『君たちどう生きるか』の世界である。人語に似た鳴声やオウムなどなのかもしれないが、それでは詩的な広がりが望めない。

制服は6月あたりから夏服に切り替わる。ある日から隠れていた二の腕から下があらわになり、胴まわりが明らかになる。大いなる変化であり、ある種の違和感がある。鳥が人語を話し出すというまるで変身のようなその変化は更衣に匹敵するものだったのだ。

愛鳥週間はシジュウカラの日からゴジュウカラの日に変わったわけだが、同類と思いたくなる四十雀と五十雀は別種なのだそうである。スズメ目シジュウカラ科とスズメ目ゴジュウカラ科。四十雀と五十雀の違いは五十歩百歩では決してないのだ。

『耳順』(1993年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



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