ハイクノミカタ

大空へ解き放たれし燕かな 前北かおる【季語=燕(春)】


大空へ解き放たれし燕かな

前北かおる

徒歩圏内の植物を把握するのと同じくらい大切なのは燕の巣のありかを見つけることである。昨日までに新たな生活圏でなんとか4つの巣を見つけた。燕はよく鳴くので比較的巣の場所がわかりやすいはずなのだが、1回ですぐ見つかるわけではない。しかし巣のありかを把握したからには今日から通勤経路が少し変わる。

自宅に燕の巣を作ってほしくて地道に研究を重ねている。巣は鴉には見えず人間には見えるような場所に作られる。これまで見つけたところではやはり軒下やガレージが多い。軒下であれば充分な奥行きかしっかりと隠すもの(庇の外側から下がるあの部分を垂れ壁というらしい。隠せない場合鴉よけネットでもOK)が必須。壁が滑りやすい素材なら土台となるものを設置しても良い。

燕はその飛行速度から速さを売りとする商品やサービスのネーミングに使われやすい。例えば九州新幹線「つばめ」。2011年3月12日の全線開業時のCMが記憶に新しい…と思ったらもう13年前のことか。3月4日から放映は開始していたが東日本大震災のため一旦とりやめに。再開は4月となったがそれがかえって感動を呼んだ。リンクを貼りたかったがCMを公開していた「祝!九州」のHPは閉鎖しており公式のものは見当たらなかった。「九州新幹線 cm」で検索してご視聴ください。映像ではあまり泣かない私も涙っぽい何かが目を覆った。

文字としてのメッセージは少ないが、みんなが祝福する感じや一人一人の懸命な姿に心を打たれた。こういう俳句を作りたいと思った。

大空へ解き放たれし燕かな

「四月二九日 慶大俳句新歓吟行会 新宿御苑」と前書きのついた一句。つばめは4月初旬から姿を見せ始める。日本の七十二候には「玄鳥至(げんちょういたる=燕が飛来するという意味。4/5〜9くらい)」というものがあり晩春に分類される。春の気分もすっかり深まるこの頃、燕が来ると本当に春が来たことを実感する。

解き放たれたという感慨は燕の飛ぶ速さによるものだ。待ちかねていた春が来て飛び出してきたといったところか。実際は巣作りに餌取りに精を出しているのだが、自分の思いを重ねるのが俳人的視点。

「大空へ」という大らかな措辞が自在に飛び回る燕の動きを加速させる。子燕が巣立つ頃には空も夏に近づいていることだろう。時間も空間も包み込んでこその大空だ。

難しい言葉は一切使わず鮮やかな映像と解放感がすっきり伝わってくる。こういう風に俳句を作りたいと思う。

『虹の島』(2015年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



【吉田林檎のバックナンバー】
>>〔97〕花散るや金輪際のそこひまで 池田瑠那
>>〔96〕さくら仰ぎて雨男雨女 山上樹実雄
>>〔95〕春雷の一喝父の忌なりけり 太田壽子
>>〔94〕あり余る有給休暇鳥の恋 広渡敬雄
>>〔93〕嚙み合はぬ鞄のチャック鳥曇 山田牧
>>〔92〕卒業歌ぴたりと止みて後は風 岩田由美
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>>〔90〕三椏の花三三が九三三が九 稲畑汀子
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>>〔54〕水中に風を起せる泉かな    小林貴子
>>〔53〕雷をおそれぬ者はおろかなり    良寛
>>〔52〕子燕のこぼれむばかりこぼれざる 小澤實
>>〔51〕紫陽花剪るなほ美しきものあらば剪る 津田清子
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>>〔49〕しばらくは箒目に蟻したがへり  本宮哲郎
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>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人


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