露けき日白痴がわあっと泣き出した 平田修【季語=露けし(秋)?】

露けき日白痴がわあっと泣き出した

平田修
(「まっ赤な紐」(『回覧誌』3号、1985年))

古語の「露けし」には辞書的に2つの意味がある。言葉のとおりに道やその脇にある草などが露に濡れて湿っぽくなっているという意味と、何か悲しい出来事や状況によって涙がちになるという意味の2つだ。露という秋の季語の傍題であることからも実際に眼前にある露と読むのが自然ではあるものの、この句においてはもう一つの意味にも繋がっているように思えてならない。そう読者に思わせる機序は単純で、のちに句群のタイトルとしても用いられる「白痴」という言葉の悲しい響きや「泣き出した」という涙そのものを表す直截なフレーズゆえだろう。

白痴というのは知的障碍を持つ人を指す差別用語であるわけだが、平田の句においてはときおり登場する。おそらくこれは特定の誰かやそうした人々のことを指しているのではなく、自分自身のことを卑下してそう呼んでいるのだろう。実際に彼が知的障碍を持っていたのかどうかは知り得ないが、自分が他人と比較してどこか劣っているという自認があったことは確かだろう。そしてその劣っている点というのが自らの精神性にあるということも。

元メジャーリーガーの松坂大輔は、小学校のときに授業参観かなにかの場で「僕は甲子園に出て優勝します」「僕はドラフト1位でプロに入ってエースになります」と宣言したのだという。「夢は甲子園出場です」「プロ野球選手になりたいです」といった願望ではなく、宣言としてそれをのたまってみせたのである。そして彼はその2つを本当に実現してしまった。もちろん単にそう宣言すれば誰でも目標を叶えられるという話ではないが、そうした言葉の重みというのは人が思っている以上に人の精神や行動を規定することがあるというわけだ。そして言葉というのは残念ながら、負の作用も持ち合わせている。親から「お前はバカだ」と言われつづけて育った子供が伸びやかな精神を獲得しづらくなるようなことと同様に、平田は「自分は精神的に劣っている」という自分に対する言葉によってさらに精神衛生を悪化させるという負の循環に陥っていたのではないだろうか。自分自身にかける言葉というものも、たまには見つめ直す必要があるのかもしれない。

細村星一郎


【執筆者プロフィール】
細村星一郎(ほそむら・せいいちろう)
2000年生。第16回鬼貫青春俳句大賞。Webサイト「巨大」管理人。



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