世直しをしてきたやうないぼむしり 国代鶏侍【季語=いぼむしり(秋)】


世直しをしてきたやうないぼむしり

国代鶏侍


いぼむしりは蟷螂カマキリのこと。世直しをしてきたようなカマキリとは、痛快な比喩だ。カマキリの顔は武士(もっと言えば必殺仕事人)のようにも見えるし、あの鎌で悪人をぶった斬るのであろう。作者は国代鶏侍くにしろけいじさん。わたしが所属している結社「蒼海」の俳人である。

掲句は蒼海20号(2023年7月刊行)に掲載された句。

鶏侍さんは関西の方で、いかにも関西らしい、いい意味で力の抜けたユニークな句を作られる。俳句には珍しいことと思うが、本気で笑える句もある。

「蒼海」誌での鶏侍さんの句を紹介したい。

俳号で一日過ごす小六月 鶏侍

もうええわで終る漫才ところてん 同

蓮根の穴しげしげと今朝の春 同

銃声のごとき部長の大嚔 同

神様の悪口言うておでん酒 同

初夢は馬鹿がぎやうさんゐてはつた 同

さん付けで呼び合ふ夫婦草の花 同

一句目、俳句で俳句を詠んで嫌味がない。季語に多幸感がある。二句目、夏の昼下がりにテレビで漫才を見ているあの感じを追体験できる。こちらも季語が絶妙。三句目、しげしげの生真面目さがいい。四、五句目、面白いかつ悲哀もある。六句目はわたしが一番好きな句。関西弁が絶品だ。七句目、ご自身のことであろうか。ほっこりとする。

先日、鶏侍さんがご逝去されたという知らせを聞いた。とても驚いて、残念でならない。

謹んでご冥福をお祈りいたします。

千野千佳


【執筆者プロフィール】
千野千佳(ちの・ちか)
1984年 新潟県生まれ。
2016年 作句をはじめる。堀本裕樹氏に師事。
2018年 「蒼海」立ち上げとともに入会。
2021年 第2回蒼海賞受賞
2023年 第11回星野立子新人賞受賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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