恋猫の逃げ込む閻魔堂の下 柏原眠雨【季語=恋猫(春)】

恋猫の逃げ込む閻魔堂の下

柏原眠雨

 この記事がアップされる2月22日は「にん・にん・にん」で忍者の日。伊賀市が「忍者市」宣言を出し、甲賀市では市役所職員が忍び装束で業務に携わる姿が昨年のニュースで伝えられた。同様に「にゃん・にゃん・にゃん」の語呂合わせで猫の日でもある。検討の結果本日は恋猫の一句を。

恋猫の逃げ込む閻魔堂の下

 春は飼い猫の脱走が増えるという。窓や玄関を開けることが増え、猫自身も発情期を迎えるからである。恋に身を焦して脱走した猫が逃げ込んだのが閻魔堂の下という点に俳諧味がある。人間であれば閻魔堂に入ることもためらわれるが、脱走猫にとってはそこがどんな場所かというのは関係ない。逃げ込んだ先では無事恋の相手と合流できたのだろうか。

 2月22日は富安風生の忌日でもある。風生ほどではないにしても、春は特に猫を愛でる気分が上がるのである。

『花林檎』(2020年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



【吉田林檎のバックナンバー】
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