見るうちに開き加はり初桜 深見けん二【季語=初桜(春)】


見るうちに開き加はり初桜

深見けん二(ふかみけんじけん

忙中閑、ならぬ忙中忙の日々がつづいております、忙オブザ忙、忙デュ忙、それにしても英語にした途端に、金のにおいがして、フランス語にした途端においしそうなのはなぜだろう。私の偏見だろうか、多分そうだ。そう、みなさん、偏見ですよ。違った違った、金曜ですよ。

というわけで、桜が開花して、ハナキン中のハナキンを迎えておりますが、そういえば、金曜ってあんまり金のにおいがしないですね…

偏見をさらに進めてゆくと、わたしにとっての桜の作家といえば、東は深見けん二さん、西は後藤比奈夫さんとなる。さらに言えば、初花がけん二、満開が比奈夫、夕桜がけん二である。同じ人が二回出てくる上に、花期(初花・満開)から時間帯(夕桜)へ基準が変わってるけどいいのって、いいんです、偏見なんだから。

けん二さんに初花のイメージがある理由の一つは、もちろん、初期の代表句「人はみななにかにはげみ初桜」のためだ。我らがハイクノミカタでもこの月曜に日下野由季さんが取り上げたばかり

けん二さんの初花の句は、そのように、人の内面の動きに心を寄せたものや、天体や天候との呼応などさまざまだが、私は桜自体の動きを、やや主観的にさらりと描いた掲句が好きだ。

見るうちに開き加はり初桜

「見」ているのは作者、つまり読者の視点。一方で、「開き」「加は」るのは桜の花の動き。句末の「初桜」は、「開き」「加はり」の主語が倒置されている(見るうちに(初桜が)開き加わる)と捉えることもできるけれど、語順の通りに読み進めれば、(作者・読者が)見ているうちに(桜の花が)開き、加わり、初桜(となる)ともとれる。ここで、すこし疑問に上がるのは、あとから加わるのはもう「初」桜ではないのではないかという点だけれど、「初花」は、「開花宣言」や「標準木」などとは少し違う種類の言葉だ。どちらかといえば、ごく初期の頃に開花した桜、あるいはその頃の桜の状況と言っていいだろう。

やさしい言葉の内に紛れてしまいそうだけれど、「加はり」はこの句の中では比較的思いの強く響く言葉だ。確かに、花は開くことでこれまでの花に加わっているわけだけれど、それを言えば咲き揃うときの花はなんでもそうであるわけで、さらに、それを言えは「開き加わり」は「咲き揃い」にそっくり置き換えられるのだけれど、例えば、その二つを比べてみた場合に、「加わり」という動詞がゆったりと、また、しかと、あたたかみをもって響くことを感じられるだろうか。

そんなことを考えるうちに、ここからは、まったく個人的な(いささか思いの強すぎる)感想なのだけれど、けん二さんの初花に対する、あるいは桜に対する思い(偏見?)の中には、何か「連帯」のようなものが含まれているのではないだろうか。

と考えてゆくと、「人はみななにかにはげみ初桜」の一輪一輪が空で開いてゆく桜と、地で励む人の姿は、互いが互いの賛歌としても成り立つ。

それにしても、「やっぱり桜の時期って毎年忙しなくて、桜なんて見てる暇あんまりないですよね」っていう鑑賞を書く前に、由季さんが素敵な鑑賞を書いてくださってよかった。もちろん、句は独り歩きするという前提から言えば、そういう読みだって許容されるわけなんだけれど。

週末、気温も上がる東京では、花の名所は混みそうだ。せめて、それぞれにちらりと仰ぐ花見ができればいい。

『夕茜』(2018年)所収

阪西敦子


【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。


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