水の地球すこしはなれて春の月 正木ゆう子【季語=春の月(春)】


水の地球すこしはなれて春の月

正木ゆう子


わたしたち人類をはじめ、すべての生物の故郷、「地球」。21世紀初頭において、知られている中で唯一生物の確認されている天体、「地球」。その生命の源、豊かな水に恵まれた奇跡のようなこの天体は、まさに〈水の地球〉。なんと美しい天体、そしてなんと美しい言葉だろう。

その「地球」の衛星である「月」が、〈すこしはなれて〉あるという。両者の距離はおよそ38万km。仮に新幹線(時速200km)で行くと約80日かかるほどで、日常生活の感覚でいえばかなりの距離になるが、太陽と「地球」との距離、およそ1億5000万kmに比べるとそれはわずかな距離となる。

〈すこしはなれて〉の中七は、人間の生活空間の距離感覚を、一気に宇宙空間の距離感覚に変容させ、読者はまるで「地球」から離れて宇宙空間からこの二つの星を見ているような気分を体験することができる。

そしてその「月」は〈春の月〉。単に「月」だと秋季を表すことになるので、「春」をつけて春季としている。「月」は一年中どの季節にもあるが、〈水の地球〉という言葉と映像から漂う気分は、春の朧の水気を含んだ大気に浮かぶ「月」と感覚的に通じ合っている。

上五〈水の地球〉の言葉のセンス、中七〈すこしはなれて〉の発想、下五〈春の月〉の季節のセンス、それぞれの良さが響き合う、広大な言語・映像空間が心地よい。そう、なんて素敵な宇宙吟行句。

明日、4月22日はアースデー(Earth Day)で、地球環境について考える日として提案された記念日だ。

かけがえのないわたしたちの〈水の地球〉の健康を祈りながら、さあ、心の宇宙吟行に出発だ!

「静かな水」(2002年)

地球については
https://ja.wikipedia.org/wiki/地球
月については
http://www.astron.pref.gunma.jp/kyozai01/tsuki/tsuki_top.html
を参考にした。

月野ぽぽな


🍀 🍀 🍀 季語「春の月」については、「セポクリ歳時記」もご覧ください。


【執筆者プロフィール】
月野ぽぽな(つきの・ぽぽな)
1965年長野県生まれ。1992年より米国ニューヨーク市在住。2004年金子兜太主宰「海程」入会、2008年から終刊まで同人。2018年「海原」創刊同人。「豆の木」「青い地球」「ふらっと」同人。星の島句会代表。現代俳句協会会員。2010年第28回現代俳句新人賞、2017年第63回角川俳句賞受賞。
月野ぽぽなフェイスブック:http://www.facebook.com/PoponaTsukino


【月野ぽぽなのバックナンバー】
>>〔28〕さまざまの事おもひ出す桜かな    松尾芭蕉
>>〔27〕春泥を帰りて猫の深眠り        藤嶋務
>>〔26〕にはとりのかたちに春の日のひかり  西原天気
>>〔25〕卒業の歌コピー機を掠めたる    宮本佳世乃
>>〔24〕クローバーや後髪割る風となり     不破博
>>〔23〕すうっと蝶ふうっと吐いて解く黙禱   中村晋
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>>〔21〕冴えかへるもののひとつに夜の鼻   加藤楸邨
>>〔20〕梅咲いて庭中に青鮫が来ている    金子兜太

>>〔19〕人垣に春節の龍起ち上がる      小路紫峡 
>>〔18〕胴ぶるひして立春の犬となる     鈴木石夫 
>>〔17〕底冷えを閉じ込めてある飴細工    仲田陽子
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>>〔14〕米国のへそのあたりの去年今年    内村恭子
>>〔13〕極月の空青々と追ふものなし     金田咲子
>>〔12〕手袋を出て母の手となりにけり     仲寒蟬
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>>〔10〕雪掻きをしつつハヌカを寿ぎぬ    朗善千津
>>〔9〕冬銀河旅鞄より流れ出す       坂本宮尾 
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>>〔1〕つゆくさをちりばめここにねむりなさい 冬野虹


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