芥回収ひしめくひしめく楽アヒル 平田修


芥回収ひしめくひしめく楽アヒル

平田修
(『闇の歌』昭和六十年ごろ)

平田は30代の後半ごろ、箱根にある衛生関係の会社で働いていた。一口に衛生関係といっても多岐に渡るが、中でも平田の担当はバキュームカーの乗務員であった。バキュームカーとは「吸上車」「糞尿車」とも呼ばれる業務用自動車の一種。現代の都市部ではあまり見かけないが、下水道の整備が行き渡っていない時代には一般的な車両であった。現在でも、イベント時の仮説トイレの処理などのために一定の需要がある。

平田の句群、特に『海に傷』『闇の歌』といった比較的初期の作品にはしばしば「糞尿車」の語が現れる。面白いのは、それらの句が過酷な労働環境に由来する苦しさや辛さの表出としてではなく、きわめて華やかで楽しげな世界を映し出している点だ。

〈梅の香の喉頸踏んだ糞尿車〉
〈さくらまつ昼のさくらさあ糞尿車〉
〈糞尿車町を刺し身にしてさくら〉
〈夏だからそおれ傾け糞尿車〉『海に傷』
〈糞尿車の腸は寒波寒波〉『闇の歌』

およそイメージとしては糞尿の対極にあると言ってもいい梅や桜といった花々との取り合わせは、青や緑であることが多い糞尿車の光沢も作用してある種のポップさをも演出する。〈さあ糞尿車〉〈そおれ傾け糞尿車〉という呼びかけのフレーズは、さながら共に旅をする相棒の大型犬と戯れているかのようである。今や句を以って読み解くほかない平田修という人物であるが、これら糞尿車を材とした句群にはそのキャラクターの一端が垣間見える。

芥回収ひしめくひしめく楽アヒル
平田修

掲句で描かれているのは「芥回収」。これは必ずしも糞尿の回収を意味しないが、いずれにしても妙に楽しそうな名光景である。「芥回収」「楽アヒル」の音韻はパレードのように賑やかで、白いアヒルの鳴き声だけでなくおもちゃの黄色いアヒルも入り混じった大行進を思わせる。「ひしめくひしめく」のは芥であり、アヒルであり、自分自身である。この世界観において芥や屎尿を秘匿すべき汚物とみなすのはもはやナンセンスで、読者はその渾然一体となった鼓行に参加したい気持ちを次第に抑えられなくなっていく。このパレードには強制力もなければ、拒否権もないのである。

細村星一郎


【執筆者プロフィール】
細村星一郎(ほそむら・せいいちろう)
2000年生。第16回鬼貫青春俳句大賞。Webサイト「巨大」管理人。



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