山よりの日は金色に今年米 成田千空【季語=今年米(秋)】

山よりの日は金色に今年米

成田千空

 盛岡への墓参りにかこつけてここ数年は東北のどこかを訪ねている。今年は青森へ。旅をする時にはその地にまつわる俳人の書を携えていくのだが、今回は準備が間に合わず後追いで学ぶことになってしまった。行先は早く決めるに限る。

 初日は恐山、大間、八戸と下北半島を巡り翌日は津軽半島へ。五所川原市の太宰治記念館「斜陽館」に没頭した。2階の和室には「斜陽」の文字を含む漢詩の書かれた襖がある。『斜陽』の源泉がここにあるのだ、と初めて同書を読んだ日のことを思い出したりしていた。

(太宰治記念館 斜陽館) 

記念館を出て、金木観光物産館「産直メロス」で土産を選んでいたら地元ゆかりの文人の書籍が並ぶ一角があった。そこで出会ったのが『合本 成田千空句集』。全句集と没年の作品3000句あまりが収められている。

 成田千空は青森県青森市生まれ。肺結核の療養中に俳句を始める。終戦後母の生家のある北津軽郡飯詰村(現在の五所川原市)に移住。同年の1946年、『萬緑』に創刊とともに参加、中村草田男に師事した。

山よりの日は金色に今年米

 津軽平野に広がる稲田の先にはその主な水源となる白神山地が見える。今年米の喜びを堪能していると山からの日差しが金色を帯びてきた。少し傾いたのだろう。今こうやって今年米を味わうことができるのもこの山からの水のおかげ。そう考えると山という存在が一層輝いて見えてくるのだ。

(岩木山方面へ) 

山並に囲まれた稲田を目の当たりにすると山からの日が金色に見えてくる心情も見えてくる。津軽平野を訪れなかったらこの句の魅力に気づかなかったかもしれない。米不足、水不足のことも引っ掛かりとなっている。

 旅を終えてからふと思い出し、広渡敬雄さんの記事を探してみたらやはりあった…。「俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第39回】 青森・五所川原と成田千空」。今回は復習として読ませていただいた。〈大粒の雨降る青田母の故郷 千空〉の句碑が〈炎熱や勝利の如き地の明るさ 草田男〉の句碑に並んでいたことを帰ってきてから知るとは!すぐ近くにいたのに。師弟句碑は今後の宿題としておこう。広渡さんの記事は予習からアプローチするのがおすすめだ。

『人日』(1998年刊)所収。

※千空の句碑の句は「故郷」に「くに」のルビあり
※掲載句、略歴ともに『合本 成田千空句集』(2019年刊・青森文芸出版)から引きました。

(青森駅近くの食堂にて)

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



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