銀漢亭なう!
吉田林檎(「知音」同人)
会社の後輩からある日名刺を差し出された。「新宿の文壇バーで俳句をやっている方と出会ったんです。連絡をとってみたらいかがですか?」という。メールしてみたら「銀漢」の大西酔馬(すいま)さんということが判明。「Oh!つごもり句会」にお誘いいただき、めでたく銀漢亭デビューを果たした。飲み、食べ、自己紹介しあい、句を作り、たまに清記し、選句し、名乗りを待つ。この忙しさで日常の何もかもを忘れることが出来た。その後も何度か「Oh!句会」に参加。行く度にその場限りではない出会いがあった。拙句集におさめた〈大空を狙つて湖へ草矢落つ〉は「Oh!納涼句会」の席題で出来た句である。
2017年夏には「知音」仲間である小山良枝さんのオーストラリアへの転居に伴う送別会の三次会で訪れた。相当出来上がっていたのであまり覚えていないのだがカウンターで楽しいお酒をいただいたことだけは覚えている。店の奥はカラオケで盛り上がっていた。
2018年の「Oh!つごもり句会」では篠崎央子さんと出会った。ほぼ同世代で、同年に句集を出すということで大いに盛り上がった。実際にお目にかかったのはその1回なのだが、もう長い付き合いの親友のつもりでいるのが私の片思いではありませんように。央子さんの句集上梓は1年先となったが、気分だけは句集同期なのである。
2019年の春、俳人協会若手句会のメンバーで盛り上がった話は中村かりんさんの驚異的な記憶力と文章力で別記事に紹介されているのでそちらをご参照いただきたい。店を出てからは近くの中華料理店で若手句会メンバーに加えて小野寺清人さん、堀切克洋さんと飲み直した。小野寺さんとはそこが初対面、堀切さんとは俳人協会の懇親会ですれ違ってはいたもののきちんと挨拶が出来ないままの再会(=事実上初対面)であった。
同年の初夏、パリに発つ堀切さんの送別句会に招いていただいた。銀漢亭は満員でなんとも愛にあふれた会であった。筆者も秋にフランスを旅することを決めていたので「その時はよろしくお願いします」と話をした。そして11月には本当に堀切さんを訪ね、現地のお仲間に混ぜていただき夢のパリ句会に参加することが出来た!パリ・句会・ワインという至福の三重奏。銀漢亭で2回酒席を共にするとはこういうことなのだなぁ。感謝。
2020年の春。若手句会仲間の白井飛露さんから「銀漢亭なう!」というLINEが届いた。写真には鏡味味千代さん。太神楽芸人の味千代さんとは「知音」初心者教室同期で、「パラソル句会」でもご一緒した。そのパラソル句会の合同句集『海へ』を携えての銀漢亭訪問だったのだ。今日は行かなくてはならない…と強烈に感じたのは虫の知らせだったのか。すぐに駆けつけた。飛露さんと私とのつながりを知らなかった味千代さんの驚きようといったら!それが最後に訪れた銀漢亭の夜だ。小野寺清人さんとも再会。覚えていてくれたのが嬉しかった。
銀漢亭で出会った人とのつながりは尋常でなく強いことを、こうして回想してみて改めて驚いている。都会では目視の難しい銀漢だが、銀漢亭は確かに神保町に灯っていたのである。
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
【神保町に銀漢亭があったころリターンズ・バックナンバー】
【10】辻本芙紗(「銀漢」同人)「短冊」
【9】小田島渚(「銀漢」「小熊座」同人)「いや重け吉事」
【8】金井硯児(「銀漢」同人)「心の中の書」
【7】中島凌雲(「銀漢」同人)「早仕舞い」
【6】宇志やまと(「銀漢」同人)「伊那男という名前」
【5】坂口晴子(「銀漢」同人)「大人の遊び・長崎から」
【4】津田卓(「銀漢」同人・「雛句会」幹事)「雛句会は永遠に」
【3】武田花果(「銀漢」「春耕」同人)「梶の葉句会のこと」
【2】戸矢一斗(「銀漢」同人)「「銀漢亭日録」のこと」
【1】高部務(作家)「酔いどれの受け皿だった銀漢亭」
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】
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