燈台に銘あり読みて春惜しむ 伊藤柏翠【季語=春惜しむ(春)】


燈台に銘あり読みて春惜しむ

伊藤柏翠(はくすい)


おとなしくしていてね作戦にはあまり効果がなく、また、緊急事態宣言下に入るようだ。

みなさん、夏も近づく非常事態宣言発出前夜の金曜日ですよ。

家の近所や勤め先は、ずいぶん人がいないように感じるけれど、それでも去年の同じ季節に合った緊張感は、そういえば感じられない。晩春だからだろうか。

この句もまさにそんな気分が実景の裏側に流れている。事実として見られるのは、燈台、であれば岸壁、そして海。もちろん空と陸も。ちなみに、作者・伊藤柏翠は太平洋戦争末期のこの頃、森田愛子とその母の元である三国にいた。つまりこれは、日本海に面した燈台。

燈台には銘があって、海から吹く風の中、頑丈な燈台の由来が書かれた、頑丈な銘文をなんとなくしっかり読んでしまっている。今もそこにとどまる時間と、過ぎ去る季節。その重さと軽さの対比も心地よい。

この句の少し滑稽な気分が最もよく表れているのが、句切れだろう。「燈台の銘文読みて」「春惜しむ」とすることもできた語群の切れ目を、「燈台の銘あり」「読みて春惜しむ」として、「読む」ことを、「銘」ではなく、より「春惜しむ」ことと括り、春惜しむ心によって、ついつい読まされてしまっているかのような印象を与える。

これまで感染者数を抑えてきたのは、同調圧力によってかと思っていたが、意外に季節も幸いしていたのかもしれない。暮春の緊急事態宣言はどれほどの力を発揮するのだろうか。

宣言に過剰に頼ったりせず、「暮春力」に流されたり…はするかもしれませんが、GW前の土日が心地よく過ぎますように。

 『伊藤柏翠集』(1982年)所収

阪西敦子


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【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。



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