神保町に銀漢亭があったころ

【クラファン目標達成記念!】神保町に銀漢亭があったころリターンズ【17】/三代川次郎(「春耕」「銀漢」「雲の峰」同人)


関西にもいた銀漢亭のファンたち

三代川次郎
(「春耕」「銀漢」「雲の峰」同人)


 結社「雲の峰」主宰の朝妻力さんと伊藤伊那男さんは春耕の兄弟弟子で非常に仲の良い間柄。2017年に出版された伊那男さんの『銀漢亭こぼれ噺』は雲の峰誌に「銀漢亭こぼれ話 そして京都」と題して書かれたエッセイを再構成・加筆して出版されたものである。

 また、伊那男さんは京都で開催される雲の峰の総会には毎年のように来賓として招かれ「常任特別講師」として1時間ほどの講演をしてくれていた。総会の二次会の後に開かれる「即吟会」や次の日に行われる吟行に参加してくれていた。そのような関係で雲の峰の中に伊那男ファンが多く、吟行で歩いているといつの間にはファンクラブのおばちゃんたちが伊那男さんの周りに集まっていたものだ。

 伊那男さんファンのおばちゃんたちは上京するたびに必ず銀漢亭を訪れていた。例えば2011年10月7日に行った「靖国神社奉納大相撲吟行」は、雲の峰の朝妻主宰と主要同人のおばちゃんたちが上京してくるために企画した吟行。吟行地などのリクエストは全くなくおまかせで、唯一のリクエストは「銀漢亭で呑みたい」「伊那男さんと会いたい」という事だけ。そのために最初にやらなくてはいけないことは銀漢亭の予約。それからあらためて吟行地探しという手順になる。せっかく関西から来るのだから、江戸らしいところをと色々と探した結果、この時は靖国神社で奉納大相撲が実施されるという事を見つけそれに決定。秋晴れの中で奉納相撲を楽しめた。

 しかし、この吟行のメインイベントはそれから。靖国神社から坂を下りながら神保町の銀漢亭に向かう道すがら、すっかりテンションの上がっているおばちゃんたちに朝妻主宰や男どもはすっかり毒気を抜かれた状態となる。この時に初めて銀漢亭を訪れたおばちゃんはしみじみと「これが噂の銀漢亭・・・」と呟いたものだった。

 その日は夕方五時過ぎから吞みだし、三々五々銀漢亭に集まって来る常連たちに混じり9時過ぎまで楽しんだ。雲の峰の会員の中にはコロナ禍で銀漢亭が店じまいをし、上京しても訪ねることができない淋しさを感じている人たちが多いのではないだろうか。


【執筆者プロフィール】
三代川次郎(みよかわ・じろう)
平成5年「春耕」入会。9年「春耕同人」、平成16年「雲の峰」に参加。「雲の峰」同人。平成22年「銀漢」設立に参加。俳人協会会員


【神保町に銀漢亭があったころリターンズ・バックナンバー】

【16】寺澤佐和子(「磁石」同人)「夢の時間」
【スピンオフ】田中泥炭「ホヤケン」【特別寄稿】
【15】上野犀行(「田」)「誰も知らない私のことも」
【14】野村茶鳥(屋根裏バル鱗kokera店主)「そこはとんでもなく煌びやかな社交場だった」
【13】久留島元(関西現代俳句協会青年部長)「麒麟さんと」
【12】飛鳥蘭(「銀漢」同人)「私と神保町ーそして銀漢亭」
【11】吉田林檎(「知音」同人)「銀漢亭なう!」
【10】辻本芙紗(「銀漢」同人)「短冊」
【9】小田島渚(「銀漢」「小熊座」同人)「いや重け吉事」
【8】金井硯児(「銀漢」同人)「心の中の書」
【7】中島凌雲(「銀漢」同人)「早仕舞い」
【6】宇志やまと(「銀漢」同人)「伊那男という名前」
【5】坂口晴子(「銀漢」同人)「大人の遊び・長崎から」
【4】津田卓(「銀漢」同人・「雛句会」幹事)「雛句会は永遠に」
【3】武田花果(「銀漢」「春耕」同人)「梶の葉句会のこと」
【2】戸矢一斗(「銀漢」同人)「「銀漢亭日録」のこと」
【1】高部務(作家)「酔いどれの受け皿だった銀漢亭」



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