神保町に銀漢亭があったころ

【クラファン目標達成記念!】神保町に銀漢亭があったころリターンズ【15】/上野犀行(「田」)

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誰も知らない私のことも

上野犀行
(「田」)


神保町に俳人が多く集まる飲み屋があると知ったのは、俳句を初めて間もない頃であった。私の師の水田光雄主宰が、会社帰りにでも寄ってみればよいと教えてくれた。

「俳人が多く集まる飲み屋」のことを、私はいわゆる「文壇バー」の俳壇版なのかと勝手に解釈した。新宿のゴールデン街や、銀座にあるような店。大物作家が飲んだくれ、議論を吹っかけられ、迂闊ことを言うと叱責され、場合よっては殴られる場所なのかと思っていた。

そんな厄介な場所だったら嫌だなあと思いつつ、恐々と銀漢亭を2015年5月に訪れた。

まだ他に客のいない早い時間帯。ひとりビールを飲みながら、自身の所属する結社誌をぱらぱらめくっていた。そうしたら「おお、田じゃないですか」と声をかけられた。それが店主の伊藤伊那男先生であった。「田」誌を読んでいたら、「田」の俳人として迎え入れてくれる。そういう場所なのだと思った。

しばらく伊那男先生と二人きりであった。先生は、そうかまだ俳句のやり始めなのだなとおっしゃり、いろいろなことを解りやすく話してくださった。やがて段々と、多くの方が集まって来た。そのほとんどが、俳人であったり出版関係であったり、何らかの形で俳句に関わる方ばかりであった。ほどなく酔いが回り、どんな話をしたかは忘れてしまった。しかし、伊那男先生に出して頂いた肴はどれもおいしかったのは覚えている。

それから時間ができるたび、ふらりと足を運んだ。いつも多くの俳人にお逢いした。

・個人的に大ファンの櫂未知子先生には、直立不動になるほど緊張して挨拶したが、とてもざっくばらんで明るい方だった。

山田真砂年先生中村かりんさんと伺った時は、山崎祐子先生も合流された。真砂年先生も祐子先生も、後年私の第一句集に大変心のこもった評くださりありがたかった。

・俳人協会・若手句会の仲間10数名で飲み会した。中村かりんさんの企画。伊那男先生に『然々と』へ揮毫頂いた。そして小野寺清人さんがまぐろをふるまってくださり、堀切克洋さんともこの時初めてお逢いした。

竹内宗一郎さんには、最初からなぜか懐かしい空気を感じた。話しているうちに、中学高校の大先輩であることが分かった。やんちゃで気のいい人が多い校風なのだ。

・伊澤貴美さんはおいしい日本酒を何回も酌んでくれ、多いに酔わされた。小島健先生はずっと赤ワインを飲んでいらして、その被害(?)を免れた。初めてお話した篠崎央子さんとは、何かで意気投合した。しかし酔いのため、何に意気投合したのかは覚えていない。多分央子さんも覚えていないだろう。この後にコロナ禍の世の中となり、この夜が私にとって最後の銀漢亭となった。

銀漢亭は、俳人が飲んだくれる場であった。しかし議論を焚きつけられることも、怒鳴られることも、殴られることも一切なかった。所属結社も俳歴も、年齢も性別も職業も関係なく、俳句と酒の好きな人が、お互い楽しく過ごしていた。誰も知らない駆け出し俳人の私のことも、誰もがとても親切に、俳人として受け入れてくれた。


【執筆者プロフィール】
上野犀行(うえの・さいごう)
1972年静岡県生まれ、神奈川県横浜市育ち。2015年「」入会。水田光雄主宰に師事。
2021年第一句集『イマジン』。俳人協会会員。


【神保町に銀漢亭があったころリターンズ・バックナンバー】

【14】野村茶鳥(屋根裏バル鱗kokera店主)「そこはとんでもなく煌びやかな社交場だった」
【13】久留島元(関西現代俳句協会青年部長)「麒麟さんと」
【12】飛鳥蘭(「銀漢」同人)「私と神保町ーそして銀漢亭」
【11】吉田林檎(「知音」同人)「銀漢亭なう!」
【10】辻本芙紗(「銀漢」同人)「短冊」
【9】小田島渚(「銀漢」「小熊座」同人)「いや重け吉事」
【8】金井硯児(「銀漢」同人)「心の中の書」
【7】中島凌雲(「銀漢」同人)「早仕舞い」
【6】宇志やまと(「銀漢」同人)「伊那男という名前」
【5】坂口晴子(「銀漢」同人)「大人の遊び・長崎から」
【4】津田卓(「銀漢」同人・「雛句会」幹事)「雛句会は永遠に」
【3】武田花果(「銀漢」「春耕」同人)「梶の葉句会のこと」
【2】戸矢一斗(「銀漢」同人)「「銀漢亭日録」のこと」
【1】高部務(作家)「酔いどれの受け皿だった銀漢亭」


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