蝌蚪の紐掬ひて掛けむ汝が首に
林雅樹
俳句には一句の中で二つの事物を取り合わせる手法がありますが、句そのものの佇まいについても「取り合わせ」を感じるものってありますよね。スイートな土台にビターな香りが漂っているとか、トラッドにアヴァンギャルドなアクセントが添えられているとか、チープとシックとが均衡しているとか。わたしはクラシックとナンセンスのコンビネーションがとても好き。たとえばこういうの。
蝌蚪の紐掬ひて掛けむ汝が首に 林雅樹
これを読んで、子供のころバケツいっぱいの蝌蚪を取ってきて、どろっと手ですくって、隣の家のナオミちゃんにあげた懐かしい思い出がよみがえりました。でも首にはかけなかった。ナオミちゃんはカエルのたまごをとても怖がってたから。と、そんな話はさておき、掲句は「首飾りを捧げる」といったきらきらしたシチュエーションをいかして、ぜひとも幼子たちの恋のメロディーとして読みたいところです。
それにしても、この似非古今集っぽさよ。いや仁勢物語か。わたしは猛烈にあほらしいことを上品な言葉で語る御仁に弱く、こういうのを見るとぞくぞくしちゃいます。もしこんな句を贈られた日には、筒井筒よろしく結婚しちゃうかもしれません。
(小津夜景)
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【執筆者プロフィール】
小津夜景(おづ・やけい)
1973年生まれ。俳人。著書に句集『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂、2016年)、翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版、2018年)、近刊に『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』(素粒社、2020年)。ブログ「小津夜景日記」
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】