連載・よみもの

【#26-1】愛媛県南予地方と宇和島の牛鬼(1)


【連載】
趣味と写真と、ときどき俳句と【#26-1】


愛媛県南予地方と宇和島の牛鬼(1)

青木亮人(愛媛大学准教授)


「きさいやロード」と掲げられた宇和島(愛媛県南予地方の町)のアーケード商店街を初めて訪れた時、道幅の広さに驚いたことを覚えている。優に十メートルを超えており、松山市の大街道商店街並みに広く感じられたものだ。アーケードが南北に長く伸びているのも特徴的で、北側から恵美須町、新橋、袋町の三商店街に架かっており、それで長大に感じられるのだ。

「ガジェット&旅」チャンネルのTaka-sim氏が宇和島を散策した動画で、2:50頃に商店街入口が見える

この三商店街は宇和島商店街として町の中心をなし、歩行者天国になっているが、かつては歩道と車道に分かれており、ボンネットバスが対面通行しうる道幅があった。各商店街の車道にはバス停もあり、昭和三十年代までは宇和島自動車が袋町を抜けた追手通の商店街(明治期に最も繁栄した区域)に本社を構えていたため、商店街の車道は宇和島バスが頻繁に往来する通りだったのだ。

自動車社会が到来するまでの地方の町では、バス会社営業所の拠点を商店街に据えることで集客力を高めた例が多く、宇和島市も同様といえよう。

戦後の宇和島市の中心となった各商店街にアーケードが出来た時期も各地方の商店街と似ており、まず昭和三十九年の東京オリンピック前後に二段式アーケード(車道と歩道それぞれに架け、高さを変えた)が造成され、同五十七年に現在のドーム型アーケードに改築されている。戦後復興の象徴ともいえる東京オリンピック前後に東京の町並みが変貌したことは著名だが、宇和島その他の全国各地も同時期に様変わりしていたのだ。

その後、各地方の市町村は高度経済成長期の余滴を享受する形で一九七〇年代後半~九〇年代初頭に再び大規模開発や施設の一新を手がけることが多く、宇和島もその一例だったといえる。

いずれにせよ、現在の宇和島商店街アーケードの幅が広いのはバス通りも兼ねた車道も含めて歩行者天国とし、アーケードで覆ったためである。

その商店街を初めて歩いた時、幅の広さ以外にも驚いたことがあった。アーケードの柱に角の生えた毛むくじゃらの物が飾られており、何だろうと近づくと牛鬼の面である。

商店街の柱に飾られた牛鬼、2018年撮影。面は赤色や緑色が多い

牛鬼は南予地方では秋祭りの山車として著名で、邪気を祓う魔除けとして親しまれており、それゆえ商店街にも飾られているのだろう。(→2へ続く

【次回は4月15日ごろ配信予定です】


【執筆者プロフィール】
青木亮人(あおき・まこと)
昭和49年、北海道生れ。近現代俳句研究、愛媛大学准教授。著書に『近代俳句の諸相』『さくっと近代俳句入門』など。


【「趣味と写真と、ときどき俳句と」バックナンバー】

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>>[#13-4] 松山藩主松平定行公と東野、高浜虚子や今井つる女が訪れた茶屋について(4)
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>>[#4] 原付の上のサバトラ猫
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>>[#2] 猫を撮り始めたことについて
>>[#1] 「木綿のハンカチーフ」を大学授業で扱った時のこと



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