遅れ着く小さな駅や天の川
髙田正子
今年は鉄道開業150周年。新幹線も山陽、東北、上越新幹線等々でそれぞれ周年を迎えた。10月14日の鉄道の日は各所でさぞかし賑わったことであろう。息子が小学生だったら大宮の鉄道博物館に泊まりがけで行っていたかもしれない。鉄道をめぐる記憶は特別であり、かつ無限にある。
小学3年生の夏休み、筆者は母に連れられて弟と3人で丸の内東映パラス(現・丸の内TOEI)まで『銀河鉄道999』を観に行った。最後感動したことは覚えているが、何よりも衝撃は主人公の鉄郎がすっきりした美少年になっていたことだった。アニメの世界も色々あるのだなと複雑な心境になったが、エンドロールの頃なるとそんなことはすっかり忘れていた。
感動した理由のひとつは物語そのものにもあるがやはり主題歌の「銀河鉄道999」(ゴダイゴ)によるところが大きい。鉄道と少年の成長を感動的に結びつけたあの曲をリアルタイムで劇場の音響を通して聴くことができたことは人生の宝のひとつである。
そうして『銀河鉄道999』は特別な作品となり、以来列車に乗る度に「このレールの先は銀河につながっている」という淡い期待を抱いた。終点の車止めを見ると少々落胆するのはそのためだったことを最近思い出した。
遅れ着く小さな駅や天の川 髙田正子
遅れ着いたのは列車でなく作者であると鑑賞した。先発隊は既に旅行の初日を楽しんでいるが、作者は仕事や家庭の都合で夜からの参加になったのである。「小さな駅」「天の川」なのだから高原や山の駅であろう。「や」には電車から降り立ち、新鮮な空気を吸い、駅の小ささに驚き、夜空を仰ぐまでの時間が集約されている。先に来ている仲間達も見ているのだろうか。天の川であれば離れ住む大事な人や彼岸の人も見ているかもしれない。これまで出会った様々な人の顔が天の川に重なる。
天の川は遠いものとして、あるいは近くにあるものと対比して詠まれることが多い。掲句も決して小さく近く描いているわけではないのだが、どこか親しいものに感じるのは「遅れ着く」によってこれから合流する期待感が描かれ、寂しさや遠さを回避しているからだ。人との絆を天の川を媒介して感じ取っているのだ。仲間達に追いついたらまず「天の川よく見えたよ!」と言おうと決めたのではないだろうか。
母と弟と映画を観た帰り、銀座でケーキを食べた。そこで生まれて初めてキウイフルーツを食べ、青くて酸っぱそうな見た目からの予想を裏切るその美味しさに驚いた。鉄道を好きになった理由にキウイフルーツも一役買っているかもしれない。
『青麗』(2014年刊)所収。
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
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