
冷たい水の天辺で鵙騒ぐ
平田修
(「まっ赤な紐」(『回覧誌』3号、1985年))
モズは「はやにえ」の習性で知られる小鳥。愛らしい見た目とは裏腹にしっかりと肉食の鳥であり、昆虫や小動物を好んで食べる。肉食というより割と雑食に近く、魚や木の実を食べることもあるという。
天辺というのは何かの1番上を表す言葉であり、人間の感覚で天辺と聞けば例えば山の頂上や空をイメージするのが普通だろう。では、「水の天辺」とはなんだろう?水が空中に浮遊して存在することはあり得ないが、これはあきらかに水が自分より高いところに存在するといった書きぶりである。いくつかの読み筋を考えてみたが、ここでは主体の意識が水中にあるという読みを提案したい。
水中から上を見れば、そこには確かに境界線としての水面が存在する。肺呼吸のできない魚類などにとって地上とは生存不可能な極限の世界であり、そこで生き生きと暮らす生物はさながら地獄の番人のようにも見えよう。鵙が水遊びや狩猟のためにパチャパチャと水面を揺らす姿すら、彼らにとっては生命を脅かす厄災に等しい。
しかし、意識を水中に移してなおも捕食者の存在に怯えるというのは、なんと惨めな自認だろうか。もちろん彼の俳句を全て自意識の投影と読むわけではないものの、彼の句を追いかける読者としてはこのような鬱屈した視点にすら物悲しさを感じてしまう。職や住まいを転々とした彼であるが、「居場所がない」という意識だけは常に持っていたのかもしれない。
(細村星一郎)
【執筆者プロフィール】
細村星一郎(ほそむら・せいいちろう)
2000年生。第16回鬼貫青春俳句大賞。Webサイト「巨大」管理人。
【細村星一郎のバックナンバー】
>>〔91〕くら病めば冷たい水の水六畳 平田修
>>〔90〕咬み合わぬ畳に冬がなだれこむ 平田修
>>〔89〕いろいろなあそびがあそぶことがいい 小玉美和
>>〔88〕ひっぱられ朝から黒く突堤に 平田修
>>〔87〕熟し柿のはるか個人が黒くなる 平田修
>>〔86〕露けき日白痴がわあっと泣き出した 平田修
>>〔85〕捨てに来た自身の鯖がよく光る 平田修
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>>〔80〕いちご腐りつ 仏壇 海とひかりあう 平田修
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>>〔74〕骨良しとした私春へ足 平田修
>>〔73〕蓬から我が白痴出て遊びけり 平田修
>>〔72〕五体ほど良く流れさくら見えて来た 平田修
>>〔71〕星が生まれる魚が生まれるはやさかな 大石雄介
>>〔70〕秋や秋や晴れて出ているぼく恐い 平田修
>>〔69〕天に地に鶺鴒の尾の触れずあり 本間まどか
>>〔68〕ここを梅とし淵の淵にて晴れている 平田修
>>〔67〕無職快晴のトンボ今日どこへ行こう 平田修
>>〔66〕我が霜におどろきながら四十九へ 平田修
>>〔65〕空蟬より俺寒くこわれ出ていたり 平田修
>>〔64〕換気しながら元気な梅でいる 平田修
>>〔63〕あじさいの枯れとひとつにし秋へと入る 平田修
>>〔62〕夕日へとふいとかけ出す青虫でいたり 平田修
>>〔61〕葉の中に混ぜてもらって点ってる 平田修
>>〔60〕あじさいの水の頭を出し闇になる私 平田修
>>〔59〕螢火へ言わんとしたら湿って何も出なかった 平田修
>>〔58〕海豚の子上陸すな〜パンツないぞ 小林健一郎
>>〔57〕夏の月あの貧乏人どうしてるかな 平田修
>>〔56〕逃げの悲しみおぼえ梅くもらせる 平田修
>>〔55〕春の山からしあわせと今何か言った様だ 平田修
>>〔54〕ぼく駄馬だけど一応春へ快走中 平田修
>>〔53〕人體は穴だ穴だと種を蒔くよ 大石雄介
>>〔52〕木枯らしや飯を許され沁みている 平田修
>>〔51〕ひまわりの種喰べ晴れるは冗談冗談 平田修
>>〔50〕腸にけじめの木枯らし喰らうなり 平田修
>>〔49〕木枯らしの葉の四十八となりぎりぎりでいる 平田修
>>〔48〕どん底の芒の日常寝るだけでいる 平田修
>>〔47〕私ごと抜けば大空の秋近い 平田修
>>〔46〕百合の香へすうと刺さってしまいけり 平田修
>>〔45〕はつ夏の風なりいっしょに橋を渡るなり 平田修
>>〔44〕歯にひばり寺町あたりぐるぐるする 平田修
>>〔43〕糞小便の蛆なり俺は春遠い 平田修
>>〔42〕ひまわりを咲かせて淋しとはどういうこと 平田修
>>〔41〕前すっぽと抜けて体ごと桃咲く気分 平田修
>>〔40〕青空の蓬の中に白痴見る 平田修
>>〔39〕さくらへ目が行くだけのまた今年 平田修
>>〔38〕まくら木枯らし木枯らしとなってとむらえる 平田修
>>〔37〕木枯らしのこの葉のいちまいでいる 平田修
>>〔36〕十二から冬へ落っこちてそれっきり 平田修
>>〔35〕死に体にするはずが芒を帰る 平田修
>>〔34〕冬の日へ曳かれちくしょうちくしょうこんちくしょう
>>〔33〕切り株に目しんしんと入ってった 平田修
>>〔32〕木枯らし俺の中から出るも又木枯らし 平田修
>>〔31〕日の綿に座れば無職のひとりもいい 平田修
>>〔30〕冬前にして四十五曲げた川赤い 平田修
>>〔29〕俺の血が根っこでつながる寒い川 平田修
>>〔28〕六畳葉っぱの死ねない唇の元気 平田修
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>>〔15〕七月へ爪はひづめとして育つ 宮崎大地
>>〔14〕指さして七夕竹をこはがる子 阿部青鞋
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