黄金週間屋上に鳥居ひとつ
松本てふこ
屋上に神社を設けているビルは珍しくないらしい。デパートや商業関係のビルならば商売繁盛、マンションの屋上なら住民の安全を祈願してのことだとか。
それにつけてもこの句はつまらない顔をしている。つまらない、は誤解を招くかもしれないから、白けた表情と言い直そうか。ゴールデンウィークに屋上の一隅にひっそりと鳥居を眺めているのがそもそも普通ではない。勿論、屋上神社を訪ねて回るのが趣味ということだってあるけれど、それなら「ひとつ」などとぶっきらぼうに片付けずにもう少し愛の感じられる書き方をするだろう。鳥居だって本当はどうでもいいのだ。もっと言えば、どうでもいいのは黄金週間なのだ。ゴールデンウィークには家族や友人と明るく楽しく過ごすものだ、というお仕着せの思い込みへの控え目な舌打ちが聞こえるようだ。
今年の連休は去年に増してショボかったと思う私の偏った読みかもしれない。ただ、去年はまだ社会全体に緊張感とここを越えれば光が見えるという希望があったけれど、この一年何も変わらず、いや状況は悪化しているというのに打つ手もなく、喜びばかりを取り上げられ続け、不満で窒息しかねないときに、この句は妙に沁みる。
そこのところは置くとして別の観点から見ると、この句には黄金と鳥居の赤(とは限らないけれど、鳥居と聞いて一次的に浮かぶのは朱色だと思う)という色彩のコントラストが隠されている。また、古来からの風習としての鳥居を取り合わせることで、黄金週間だのゴールデンウィークだのの名称の如何にも取ってつけたよそよそしさが図らずも浮き彫りになっているところも面白い。
(『汗の果実』 邑書林 2019年より)
(太田うさぎ)
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【執筆者プロフィール】
太田うさぎ(おおた・うさぎ)
1963年東京生まれ。現在「なんぢや」「豆の木」同人、「街」会員。共著『俳コレ』。2020年、句集『また明日』。
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】