五体ほど良く流れさくら見えて来た
平田修
(『曼陀羅』1996年ごろ)
昨日は野球の練習をした。キャッチボールだけでなく、内野位置でのノック練習も行った。自分の番になるとノッカーが打つゴロを捕り、一塁手に送球したあとは自分が次の一塁手としてポジションを入れ替わる。この形式のノックは捕球・送球の動作以上に、一塁と内野との往復による有酸素的な疲労が蓄積する。スタミナのないわれわれ俳人にとって、ある意味適したトレーニングでもあるというわけだ。
また巨大軍は先日、エースである「麒麟」所属の伊東夏生さんを転勤という悲劇によって失った。投手の育成が急務となった中で、キャッチャーの大塚凱とセカンドの細村が現在登板に向けての練習をこなしているという自転車操業ぶりだ。野球経験者の凱さんはすでにスライダーを投げ分けるほどの習熟度に達しているが、問題は野球経験のない細村である。速い球を投げられないのはもちろん、当初はストライクを投げ込むことすら能わなかった。軟投派という言葉があるが、それは良いコントロールあってのもの。球も遅くストライクも入らないようでは、軟投派どころかピッチャーの体を成していない。
これはマズいとの思いから、個人練習として投げ込みを始めた。洗濯ネットのようなものを手首に縛り付けることで室内でも実際にボールをリリースする感覚で練習ができる「シャドーピッチ」というアイテムを購入し、自宅や職場でピッチングフォームの改善を図った。練習の成果は徐々に現れてきており、キャッチボールでもわかるほど如実な変化が生じた。まず、いわゆる大暴投はほとんどなくなった。回転の弱い山なりのボールばかりだった球質も改善し、ツーシームの握りによる少しシュート回転気味の垂れづらいボールを投げられるようになった。草野球ではピッチャーが安定してストライクを投げられるというだけでもアドバンテージになりうるので、打力に期待できない自分としてはこの調子でなんとかチームに貢献したいところだ。
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五体ほど良く流れさくら見えて来た 平田修
ピッチングというのは腕力や脚力だけの問題ではなく、全身の連動が重要である。体重移動のタイミング、足を出す位置、肩の捻転、腕の角度、指先のリリース、フォロースルー。すべての動きが一体となったとき、下半身に溜められた膂力が身体から腕を通してボールの回転へと伝わってゆく。五体が完璧に同期した投球ができた際には、バッティングの爽快感とはまた異なる快感がある。エネルギーが身体を媒体として地面からボールへと流れていく感覚は、よくできた俳句を読み下すときの快楽ともどこか似ている。身体が連動する感覚を忘れないようにしながら、来る春の野球に向けて充実したオフシーズンを過ごしたい。
(細村星一郎)
【執筆者プロフィール】
細村星一郎(ほそむら・せいいちろう)
2000年生。第16回鬼貫青春俳句大賞。Webサイト「巨大」管理人。
【細村星一郎のバックナンバー】
>>〔72〕五体ほど良く流れさくら見えて来た 平田修
>>〔71〕星が生まれる魚が生まれるはやさかな 大石雄介
>>〔70〕秋や秋や晴れて出ているぼく恐い 平田修
>>〔69〕天に地に鶺鴒の尾の触れずあり 本間まどか
>>〔68〕ここを梅とし淵の淵にて晴れている 平田修
>>〔67〕無職快晴のトンボ今日どこへ行こう 平田修
>>〔66〕我が霜におどろきながら四十九へ 平田修
>>〔65〕空蟬より俺寒くこわれ出ていたり 平田修
>>〔64〕換気しながら元気な梅でいる 平田修
>>〔63〕あじさいの枯れとひとつにし秋へと入る 平田修
>>〔62〕夕日へとふいとかけ出す青虫でいたり 平田修
>>〔61〕葉の中に混ぜてもらって点ってる 平田修
>>〔60〕あじさいの水の頭を出し闇になる私 平田修
>>〔59〕螢火へ言わんとしたら湿って何も出なかった 平田修
>>〔58〕海豚の子上陸すな〜パンツないぞ 小林健一郎
>>〔57〕夏の月あの貧乏人どうしてるかな 平田修
>>〔56〕逃げの悲しみおぼえ梅くもらせる 平田修
>>〔55〕春の山からしあわせと今何か言った様だ 平田修
>>〔54〕ぼく駄馬だけど一応春へ快走中 平田修
>>〔53〕人體は穴だ穴だと種を蒔くよ 大石雄介
>>〔52〕木枯らしや飯を許され沁みている 平田修
>>〔51〕ひまわりの種喰べ晴れるは冗談冗談 平田修
>>〔50〕腸にけじめの木枯らし喰らうなり 平田修
>>〔49〕木枯らしの葉の四十八となりぎりぎりでいる 平田修
>>〔48〕どん底の芒の日常寝るだけでいる 平田修
>>〔47〕私ごと抜けば大空の秋近い 平田修
>>〔46〕百合の香へすうと刺さってしまいけり 平田修
>>〔45〕はつ夏の風なりいっしょに橋を渡るなり 平田修
>>〔44〕歯にひばり寺町あたりぐるぐるする 平田修
>>〔43〕糞小便の蛆なり俺は春遠い 平田修
>>〔42〕ひまわりを咲かせて淋しとはどういうこと 平田修
>>〔41〕前すっぽと抜けて体ごと桃咲く気分 平田修
>>〔40〕青空の蓬の中に白痴見る 平田修
>>〔39〕さくらへ目が行くだけのまた今年 平田修
>>〔38〕まくら木枯らし木枯らしとなってとむらえる 平田修
>>〔37〕木枯らしのこの葉のいちまいでいる 平田修
>>〔36〕十二から冬へ落っこちてそれっきり 平田修
>>〔35〕死に体にするはずが芒を帰る 平田修
>>〔34〕冬の日へ曳かれちくしょうちくしょうこんちくしょう
>>〔33〕切り株に目しんしんと入ってった 平田修
>>〔32〕木枯らし俺の中から出るも又木枯らし 平田修
>>〔31〕日の綿に座れば無職のひとりもいい 平田修
>>〔30〕冬前にして四十五曲げた川赤い 平田修
>>〔29〕俺の血が根っこでつながる寒い川 平田修
>>〔28〕六畳葉っぱの死ねない唇の元気 平田修
>>〔27〕かがみ込めば冷たい水の水六畳 平田修
>>〔26〕青空の黒い少年入ってゆく 平田修
>>〔25〕握れば冷たい個人の鍵と富士宮 平田修
>>〔24〕生まれて来たか九月に近い空の色 平田修
>>〔23〕身の奥の奥に蛍を詰めてゆく 平田修
>>〔22〕芥回収ひしめくひしめく楽アヒル 平田修
>>〔21〕裁判所金魚一匹しかをらず 菅波祐太
>>〔20〕えんえんと僕の素性の八月へ 平田修
>>〔19〕まなぶたを薄くめくった海がある 平田修
>>〔18〕夏まっさかり俺さかさまに家離る 平田修
>>〔17〕純粋な水が死に水花杏 平田修
>>〔16〕かなしみへけん命になる螢でいる 平田修
>>〔15〕七月へ爪はひづめとして育つ 宮崎大地
>>〔14〕指さして七夕竹をこはがる子 阿部青鞋
>>〔13〕鵺一羽はばたきおらん裏銀河 安井浩司
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>>〔8〕蛇を知らぬ天才とゐて風の中 鈴木六林男
>>〔7〕白馬の白き睫毛や霧深し 小澤青柚子
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>>〔3〕銀座明るし針の踵で歩かねば 八木三日女
>>〔2〕象の足しづかに上る重たさよ 島津亮
>>〔1〕三角形の 黒の物体の 裏側の雨 富沢赤黄男