白魚の目に哀願の二つ三つ
田村葉
同僚のUさんが昔バイトしていた寿司屋の大将に言われた言葉。
「死んだ魚のような目をしやがって」
一緒に聞いていた他の同僚ともども「どひゃ~~」と笑い転げた。
ドラマとかならまだしも現実でこんなセリフを言う人がいるとは。
白魚の目に哀願の二つ三つ
田村葉
死んだような目をした人間に対して、こちらはまだ生きている魚。
生きてはいるがもうすぐ殺される。殺されることを察知している。
「二つ三つ」が微妙だ。沢山いる白魚の中に哀願を見せるものがいるのか、それとも一匹の目に二度三度そんな情が浮かぶのを作者が見て取ったのか。微妙ながら、ちらちらと現れて気になる「二つ三つ」。
さて、「死んだ魚のような目をしやがって」と言われたらなんて答えたらいいんだろう?
そうだ!こんなのはどうだろう?
「大将、さすがに大将は生きた魚のような目をしてますね」
言ってみたくてそこの寿司屋でバイトしたいと思ったのだが、もう今はそのお店はないらしい。
あ、でも「死んだ魚のような目」をしていなくては言われないわけであって、私は接客になると反射的に生き生きしてしまうからな~。
どっちにしてもダメか。
(杉山久子)
【執筆者プロフィール】
杉山久子(すぎやま・ひさこ)
平成元年より作句。第2回芝不器男俳句新人賞受賞。句集『栞』他4冊。紀行文集『行かねばなるまい』。早くから才能を発揮し、芝不器男俳句新人賞、山口県芸術文化振興奨励賞に続き、前作『泉』では第1回姨捨俳句大賞を受賞した著者。宇宙の中の一存在として詠み、しなやかで独創的な感性が煌めく注目の第四句集。
◆帯より
冬星につなぎとめたき小舟あり
過ぎてゆく日常に栞をはさむように句を作っているのかもしれないと、少し前から感じるようになった。
言葉にならないけれど言葉を取り巻くもの、言葉と言葉のあわいにあるものの輝きも、ともに受け取り、味わってゆきたい。(杉山久子)1997年7月~1999年4月、
月刊俳句新聞『子規新報』に連載された
「お遍路は風まかせ」が書籍化!興味本位からスタートした
ドタバタ四国遍路紀行……180ページの本書の下端両角には
表紙画も担当した流水彩子のパラパラ漫画付き。
装丁は律川エレキ。
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
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