今年の蠅叩去年の蠅叩
山口昭男
8年前、職場の先輩に誘われて「秋草」の句会に参加した。主宰の山口昭男さんは、一緒に仕事をさせていただいたことがあったが、俳人であり結社の主宰であるということは全く知らなかった。
小学校教師という仕事柄、私も年に数回は俳句の授業を行っていたが、教科書に載っている芭蕉や蕪村の句を読み、子供たちと一緒に季節の俳句をつくる、という一般的なものだった。初めて参加した「秋草」の句会で出された俳句は、私の知っている俳句のイメージとは全く異なり、大いにとまどったことを覚えている。
ほどなくして、山口主宰から第三句集『木簡』をいただいた。初めて手にする句集であった。ほとんどわからなかった。わからなかったが、装幀も含めて、とにかくかっこいいと思った。結果的に『木簡』が、「秋草」で俳句を続けていくきっかけになった。
掲句は『木簡』の中の一句。蠅叩が二本提示されるだけで、何も言っていない。シンプルであるからこそ、想像力が存分に掻き立てられる。私は祖母の家にある蠅叩を思い出した。子供の頃、年上の従妹が蠅叩を振り回して遊んでいた。私も使いたかったが、貸してくれない。すると、祖母がどこからかもう一本の蠅叩を出してきてくれた。蠅叩とはそういうものなのだ。
今年の2月、『木簡』と同じ版元の青磁社より、第一句集『王国の名』を上梓した。青磁社を選んだのは、『木簡』への強いあこがれがあったからに他ならない。「セクト・ポクリット」管理人の堀切克洋さんから「『木簡』を思い出させる装幀」と言っていただけたのは、なんともうれしかった。
(常原 拓)
【執筆者プロフィール】
常原 拓(つねはら・たく)
1979年 神戸市生まれ
2016年 「秋草」入会 山口昭男に師事
2023年 第7回俳人協会新鋭俳句賞準賞
2024年 第一句集『王国の名』第7回俳人協会新鋭俳句賞準賞受賞の「秋草」所属の中堅俳人。
待望の第一句集。常原拓句集『王国の名』
四六判変型上製
200ページ
2000円(税別)ISBNコード
978-4861985805
第69回読売文学賞受賞!
2010年からの作品338句をまとめた第三句集。
待ちに待った「秋草」主宰として初の句集。山口昭男句集『木簡』
四六判ソフトカバー
194ページ
2500円(税別)ISBNコード
978-4861983818
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
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