金色の種まき赤児がささやくよ
寺田京子
生まれてまもない赤児はまだ言葉をもたないが、言葉を覚えるまでの間も、光や音を敏感に感じている。何かしゃべり始めた頃なのか、それともまだ言葉にならない声を発しているのだろうか。春の光の中で蒔かれる金色の種も赤児も未来があり生命のはじまりを思わせるが、種を蒔くことと赤児がささやくことに因果関係はなく、ささやくという言葉にはやさしさもあれば、少し不穏さもあるようにも思う。赤子が小声で一体何をささやいたのだろうか。
掲句が収められている句集『鷺の巣』で、種を蒔く句を寺田京子はいくつか詠んでいる。
種を蒔く一直線は神の声
帽深く種蒔き種蒔き滅びゆく
花の種蒔くや眠たきときねむり
種を蒔き命が生まれることの神々しさを詠み、また、死へ向かっていく生を真正面から詠んでもいる。
赤児のささやきが、神々しさも滅びの予感も孕んでいると思えないこともないが、掲句においては、意味や未来などに思いを馳せず、金色の種を蒔いている今があり、傍で囁いている赤児の存在の不思議さそのものを味わいたいと思う。俳句の短さの中で、赤子のささやきという謎が残されたまま、「いま」が続いている。樹や水が囁いているように。
(山岸由佳)
【執筆者プロフィール】
山岸由佳(やまぎし・ゆか)
「炎環」同人・「豆の木」参加
第33回現代俳句新人賞。第一句集『丈夫な紙』
Website 「とれもろ」https://toremoro.sakura.ne.jp/
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
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