タワーマンションのロック四重や鳥雲に
鶴見澄子
だいたいの服に合うアクセサリーがあるように、だいたいの情景にハマる季語というのがある。ハマるというよりも落とす、一気に収斂させる、といった方が正しいかもしれない。山崎宗鑑の下句〈それにつけても金の欲しさよ〉みたいなものですね。
わたしの考えるなんにでも合う季語はまずもってヒヤシンスだ。これをつけると、不思議なことに、だいたいなんでも落ちる。あと〈鳥雲に〉もそうで、この季語には逍遥院実隆の下句〈といひし昔のしのばるゝかな〉的な感慨がある(山崎宗鑑と逍遥院実隆の下句の話は、堀成之『今古雅談』の「諧謔余意あり」というコラムに出てきます)。
けれども「あ。これは本当に〈鳥雲に〉以外ないよなあ…」としみじみしてしまう句というのももちろんいっぱいあって、これなんかまさにそうだ。
タワーマンションのロック四重や鳥雲に 鶴見澄子
伸びやかに歌い出した字余りの上五。長音・促音・濁音の展開による絶妙なリズム。そしてそこに乗せられた言葉のメロディー。これらの要素がうまく絡み合い、句がとても生き生きしている。とくに〈ロック四重や〉はなかなか出てこない、発明といいたくなるような中七だ。〈ロック〉と〈四重〉が音楽を彷彿させるところもいい。さらに〈タワーマンション〉と〈鳥雲〉の高層的対称性がこの句に張力を与えている。鳥の去るほのかなさみしさをふっと香らせながら。
(小津夜景)
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【執筆者プロフィール】
小津夜景(おづ・やけい)
1973年生まれ。俳人。著書に句集『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂、2016年)、翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版、2018年)、近刊に『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』(素粒社、2020年)。ブログ「小津夜景日記」
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