さて、いよいよ掲句である。
クローバーや後髪割る風となり
句中の動作の主に〈クローバー〉の頃の風が吹く。〈後髪割る風となり〉からは春一番のような、春先の強風が現れ、その風が野原一面の〈クローバー〉を渡ってゆく。そしてその人は〈クローバー〉の一つを手にとり草原に集まる群衆に語り出すのだ。動作の主は聖パトリック。遥かなるときを超えて今も草原に立つ。
掲句が開く自在な空間にひととき幻想した。
セント・パトリックス・デーが過ぎると、アメリカの春の始まりである、待望の春分はすぐ目の前だ。さて、陽光を浴びに散歩に出かけようか。
(月野ぽぽな)
【執筆者プロフィール】
月野ぽぽな(つきの・ぽぽな)
1965年長野県生まれ。1992年より米国ニューヨーク市在住。2004年金子兜太主宰「海程」入会、2008年から終刊まで同人。2018年「海原」創刊同人。「豆の木」「青い地球」「ふらっと」同人。星の島句会代表。現代俳句協会会員。2010年第28回現代俳句新人賞、2017年第63回角川俳句賞受賞。
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