【#31】ヴィヴィアン・ウエストウッドとアーガイル柄の服


【連載】
趣味と写真と、ときどき俳句と【#31】


ヴィヴィアン・ウエストウッドとアーガイル柄の服

青木亮人(愛媛大学准教授)


ヴィヴィアン・ウエストウッドはいつもタフでおしゃれだ。

彼女はイングランドのファッション・デザイナーで、1970年代に勃興したロンドン・パンクに深く関わった人物である。いわゆるパンク・ファッションとして知られるガーゼシャツやSM調の服は、ヴィヴィアンや恋人のマルコム・マクラレンが経営したブティック「Sex」「World’s End」で販売された服だった。何より、マルコムが「Sex」に集う若者たちに声をかけてバンドを作らせ、セックス・ピストルズとして世に売り出したのは有名な話だ。

ヴィヴィアンが考案したパンク・ファッションはピストルズが歴史に残る伝説的なバンドになったために世界中に知れ渡り(ピストルズはヴィヴィアンの服を着てステージに上がった)、やがて彼女はファッション業界に乗り出した。ヴィヴィアンは激しい競争社会と権謀術数渦巻く業界の荒波に揉まれるとともに、大英帝国的階級社会の誹謗中傷――ヴィヴィアンは労働者階級出身だった――をモノともせず、やがて“モードの女王”として君臨する存在となる。

2018年に公開された映画『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』からは、70代の彼女がいまだ意気軒昂として気を吐き、戦い続けているのがうかがえる(下は予告編)。

この映画を観るとヴィヴィアンのタフな生きざまもさることながら、「おしゃれだな」と当然すぎる感想を抱くことが多い。「おしゃれ」というのは「自分に合った色味や服を当たり前のように身につけることができる」といった意味合いで、ヴィヴィアンはどんな傾向やコンセプトの服もごく自然に、自分のものとして悠々と着こなしている雰囲気がある。

予告編でいえば0:30あたりや2:40のファッションは粋に感じてしまうし、特に0:30の服で落ち着いたワインレッドの色を合わせるのはさすがと感じ入ってしまう。

そういったヴィヴィアン等のパンク・ファッションに関心を抱いたためか、気付けばイギリス的な雰囲気の服が好きになり、大学院時代はよくバーバリー(イギリス)のブラック・レーベルを着ていた。特にアーガイル柄が好きで、下の写真はブラック・レーベルの服を着た時のものだ。

アーガイル柄の服。2004年頃に購入

確か2016、7年頃にフードコートで撮った写真だったと記憶している。エレガンスからほど遠い場所で、ヴィヴィアンらしいデザインでもないが、この服には個人的に「ヴィヴィアン→アーガイル柄をあしらったイギリスっぽい服」と私的すぎるつながりを感じるため、お気に入りの服の一つだ。

なお、ヴィヴィアンはイングランド出身だが、アーガイル柄の発祥はスコットランドであり、アイルランドでもよく着られる柄である。よく考えるとアーガイルとイングランドとの相性は微妙な気もするが、そこは深く考えずに「イギリス」という括りでまとめておこう。

無論、アーガイル柄を着てもヴィヴィアンのようにタフな生き方が出来るわけでもないが、写真のアーガイル柄の服は今も着ることが多く、かれこれ20年近く着ている。同じ服を長い間着ていると次第に家族のような存在に感じられ、秋や冬になると気心の知れた仲間と再会するようにアーガイル柄の服をクローゼットの奥から取り出し、身にまとっては時々ヴィヴィアン・ウエストウッドを思い出す。

彼女はイギリスで今もタフであろうとし続けているのだろうか、と。

【次回は12月15日ごろ配信予定です】


【執筆者プロフィール】
青木亮人(あおき・まこと)
昭和49年、北海道生まれ。近現代俳句研究、愛媛大学准教授。著書に『近代俳句の諸相』『さくっと近代俳句入門』など。


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