鉄瓶の音こそ佳けれ雪催
潮田幸司
銀化誌のリモート編集はかなりの労力を伴うものだった。新型コロナウイルス感染防止の観点から、東京の事務所に集まっての編集作業は好ましくないとの編集長判断である。その期間は2020年3月から2021年10月までの約1年半に及んだ。リモート編集の概要は以下の通りである。
①印刷所から、編集長は紙で、編集部員はデータで原稿と投句はがきを受け取る。
②各自パソコン画面又は印刷原稿で校正を行い、校正結果を編集長にメールする。
③編集長は校正結果を紙の原稿に朱で書き入れ、印刷所に送る。
④上記作業は初校と再校の2回行う。
⑤主宰と編集長は印刷所において最終校正を行う。
筆者の主たる担当は主宰の句の旧字体の校正である。旧字辞典を引きながら、豊→豐、亀→龜のように一字一字校正していく。確認作業が終わったら、印刷原稿をスキャンしてPDF化し、メールに添付して編集長に送る。これで大体4~5時間の作業となる。
一番大変だったのは編集長。上記③の作業である。通常は編集部員が個々に行う作業を一人で担わなければならない。相当な労力だ。ときに他の結社誌の主宰や編集部の方々もさぞかし苦労されていることと思う。新型コロナウイルスが俳句界全体に及ぼす影響は計り知れない。
掲句の作者潮田は銀化誌の編集長である。潮田の句柄にはドラマ性が感じられる。臨場感と言ってもよい。鉄瓶の蓋を持ち上げ、一寸ずらした時の音、やわらかく立ち昇る湯気、炭の爆ぜる音や匂い。あるいは鉄瓶を囲炉裏端に置いた時の音かも知れない。外に目を遣ると、今にも雪が降り出しそうな曇り空。音を詠みつつ限り無く静かな景を描いている。古き良きというよりは、脈々と受け継がれるにっぽんの原風景を感じる。まさに温故知新と言う言葉が相応しい。こそ~けれの係り結びも効いているし、佳けれの“佳”の字にも作者の心配りが感じられ、それこそとても心地佳い句に仕上がっている。
オミクロン株の感染急拡大に伴い、今月から再びリモート編集に戻ることになった。つい先週末に急遽決まったばかりである。たった2ヶ月のリアル編集ではあったが、久しぶりに面と向かって行う編集作業はとても楽しかった。全員参加という訳にはいかなかったが、忘年会も開催することが出来た。一日も早い完全なる終息を願いつつ、リモート編集に参加できない編集部員も含め、編集部は心を一つにして銀化誌を作っていく。みんなでわいわい言いながら、またリアル編集が出来るその日まで。
掲句は『創刊二十周年記念 銀化季語別作品集』より抽いた。
(菅 敦)
【執筆者プロフィール】
菅 敦(かん・あつし)
昭和四十六年 千葉県生れ
平成二十年「銀化」入会 中原道夫に師事
平成二十四年 第十三回「銀化」新人賞受賞・同年「銀化」同人
平成二十九年「銀化」副編集長
令和二年 俳人協会第四回新鋭俳句賞準賞 受賞
令和二年 第一句集『仮寓』上梓 俳人協会会員
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【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】