新人類とかつて呼ばれし日向ぼこ
杉山久子
「新人類」という言葉に出会ったのは高校生の頃だった。実際にこの言葉が作られ、流行し始めたのはもう少し前のことだったが、中学生当時の私にはキャッチできなかった。そしてこの記事を書くまでは自分は新人類だと思い込んでいた。当時の若者を総称するネーミングには全て自分が含まれていると思っていたのだ。しかし、実際には1955~1967年頃に生れた、少し先輩たちのことをさす言葉であるらしい。
いつの時代も旧世代には新世代が理解しにくい。名前をつけることで「自分たちとは違う」と設定し、理解しなくても良い理由を作って安心しているのかもしれない。
「今時の若者は」と言いたくなるような世代に自分がなってみると若者は理解できないというよりは心配になることがある。あなたの一言が多くの大人に汗をかかせているんだよ…ちょっとしたミスが大変な影響を及ぼすことがあるんだよ…。あくまで一般論です。
新人類とかつて呼ばれし日向ぼこ
新人類と呼ばれたのはおそらくは20代の頃。世の中からはそのネーミング通り珍しがられ、不思議がられたことだろう。自分自身も古い考えは打ち壊そう、何か新しいことをやろうという気概に満ちあふれていた。そんな時代もあったねぇ、あの頃は楽しかったよね、あなたはやりとげたわよね、などと同年代を生きた友人と日向ぼこ。それまで思い切り駆け抜けてきたからこそこの寒さの中に日だまりをみつけて日向ぼこを楽しむことが出来るのだ。
「新人類」からはそこにいる人物の年代や人生観を思わせる。「日向ぼこ」はそれに対して作者がどのような感情を持っているかが表れている。日向ぼこでとはいえ、きっと周囲から見るよりもずっとしっかりと休息をとっている。
掲句の「新人類」をそれ以外の各世代の名称に入れ替えてみたところ、どれもしっくりこない。団塊世代は過去形との相性が悪い。しらけ世代、ゆとり世代は近すぎて「日向ぼこ」が生きてこない。Z世代に至っては言葉からイメージがふくらんでこない。「新人類」は人間を感じさせる世代ネーミングなのだ。
生れた年通りの規定だと私は団塊ジュニア世代。団塊=第一次ベビーブーム世代のジュニアという、人間に分析が入らない呼び名が少々物足りない。人数の話以外に情報がない。実際には「団塊ジュニア」というだけでどんな人生を生きていたのか、少しは想像してもらえるだろう。あくまでネーミングの好みの話である。
長いこと自分は新人類だと思い込んできたのだから外部からの規定と違ったからといって落胆する必要もない。落胆というと大袈裟だが、新人類にはそれくらい魅力的な響きがあるのだ。引き続き、自称「新人類」ということにしておこう。
『栞』(2023年刊)所収。
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
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