無方無時無距離砂漠の夜が明けて 津田清子(無季)


無方無時無距離砂漠の夜が明けて

津田清子


「無方無時無距離」というのは割に硬い説明的な言い回しだが、実感から引き出された言葉なのだろう。茫漠とした砂漠に慣れてからは、方角、時間、距離の感覚は失われてしまう。

「無方無時無距離」の一方、「夜が明けて」はロマンティックな言い回しである。ただ、その実は、夜が明け、木陰などもない砂漠の広がりが提示されるのであるから、決して涼しさのみに終始する措辞ではなかろう。無季というのが、殊更納得のいく句と思う。

安里琉太


【この詩が読める本はこちら↓】

津田清子『無方』(2000年)

【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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