白萩を押してゆく身のぬくさかな
飯島晴子
両側から萩が、「押してゆく」だけの量感をもってせりだしてくる狭い道。それは温度感覚で言えばつめたくもあたたかくもないだろうが、強いて言えば包まれている感じはあるかもしれない。この「ぬくさ」は、むしろ身体の内部から湧き上がるものだと思う。歩いてゆくために必要なエネルギー、そして懐かしさのような感覚。「白萩」のやわらかさ、「押してゆく」の強さ、そして再び「ぬくさ」へ。混沌とした良い句だと思う。
(小山玄紀)
【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員
【小山玄紀さんの句集『ぼうぶら』(2022年)はこちら↓】
【小山玄紀のバックナンバー】
>>〔22〕露草を持つて銀行に入つてゆく 飯島晴子
>>〔21〕怒濤聞くかたはら秋の蠅叩 飯島晴子
>>〔20〕葛の花こぼれやすくて親匿され 飯島晴子
>>〔19〕瀧見人子を先だてて来りけり 飯島晴子
>>〔18〕未草ひらく跫音淡々と 飯島晴子
>>〔17〕本州の最北端の氷旗 飯島晴子
>>〔16〕細長き泉に着きぬ父と子と 飯島晴子
>>〔15〕この人のうしろおびただしき螢 飯島晴子
>>〔14〕軽き咳して夏葱の刻を過ぐ 飯島晴子
>>〔13〕螢とび疑ひぶかき親の箸 飯島晴子
>>〔12〕黒揚羽に当てられてゐる軀かな 飯島晴子
>>〔11〕叩頭すあやめあざやかなる方へ 飯島晴子
>>〔10〕家毀し瀧曼荼羅を下げておく 飯島晴子
>>〔9〕卯月野にうすき枕を並べけり 飯島晴子
>>〔8〕筍にくらき畳の敷かれあり 飯島晴子
>>〔7〕口中のくらきおもひの更衣 飯島晴子
>>〔6〕日光に底力つく桐の花 飯島晴子
>>〔5〕気を強く春の円座に坐つてゐる 飯島晴子
>>〔4〕遅れて着く花粉まみれの人喰沼 飯島晴子
>>〔3〕人とゆく野にうぐひすの貌強き 飯島晴子
>>〔2〕やつと大きい茶籠といつしよに眠らされ 飯島晴子
>>〔1〕幼子の手の腥き春の空 飯島晴子
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】