さへづりのだんだん吾を容れにけり
石田郷子
囀りは春に小鳥たちが求愛のために鳴く声。雌の気をひくために、そしてテリトリーを守るために、雄はさかんに囀る。
その声は、時に一樹にひしめくほどで、うるさく思うこともあるけれど、ふりそそぐ春の日差しと相まって、「囀り」というのは、私の中で眩しい季語のひとつでもある。
掲句、囀りの一樹の下、傍らのベンチに腰掛けて、目をつぶっている人物を想像する。
その人物になったつもりで一句に身を委ねてみると、頭上でかかわりなく鳴いていた鳥たちの声が、しだいに自分を包み込んでいき、いつしか一体となっていく感覚におちいる。それも自然に心地よく。
自然に対して、こちらから踏み込んでいくのではなく、ただそこに居て待っている。その「待つ」という姿勢がこの句にはあって、それゆえに、「だんだん吾を容れにけり」と言える扉が開かれたのだろう。
端的にいえば、囀りに受け入れてもらった、というようなこの捉え方は、自然より人間が勝るという認識のもとではなりたたない。囀る鳥たちだけでなく、虫や木や草や花という生きとし生けるものすべてを等しく見つめる眼差しがあってこそ、この感覚に喜びを覚え、そして親しむことが出来るのだと思う。
(日下野由季)
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【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』、『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。
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