夕飯よけふは昼寝をせぬままに 木村定生【季語=昼寝(夏)】


夕飯よけふは昼寝をせぬままに

木村定生

「秋草」10周年を記念して、『秋草歳時記─第一巻─』が刊行された。創刊の2010年1月号から2019年12月号までの「秋草」発表の主宰句と秋草草子(各号の主宰の十句選)、主宰注目句等を季語別に編纂したものである。

常々、山口主宰は「俳句は季語である」とおっしゃる。有季定型を標榜する結社なら当然のことかとは思われるが、「季語が動きます」「季語につき過ぎです」と季語に関してはかなり厳しい。「青」「ゆう」で学ばれた山口主宰の句をはじめ、自由な取り合わせの句が多くみられる「秋草」だからこその厳しさであり、そこに結社の歳時記が生まれる土壌が十分に養われてきたのであろう。

掲句はその中の一句。作者の木村定生さんは「青」「ゆう」から「秋草」に参加され、現在は「麒麟」でもご活躍である。定生さんの俳句の凄さは、ぶれないことである。一見只事に思えるような事象を、難しい言葉を使わずに飄々と詠まれる。それをひたすらに続けておられる。続けることで、作風として確固たるものとされているところを尊敬する。

ユニークなのは上五の「夕飯よ」。それに続く衒いのない措辞で、季語「昼寝」の本意をこれ以上ないほどに言い当てている。只事俳句とのぎりぎりのバランスが絶妙であり、決して真似はできない。

常原 拓


【執筆者プロフィール】
常原 拓(つねはら・たく)
1979年 神戸市生まれ
2016年 「秋草」入会 山口昭男に師事
2023年 第7回俳人協会新鋭俳句賞準賞
2024年 第一句集『王国の名』

第7回俳人協会新鋭俳句賞準賞受賞の「秋草」所属の中堅俳人。
待望の第一句集。

常原拓句集『王国の名』

四六判変型上製
200ページ
2000円(税別)

ISBNコード
978-4861985805


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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